第6話 ミリュアの泉、血に染まる
聖なる泉ミリュアの中心に、月明かりが静かに差し込む。
だが、そこに漂う空気は神聖とは程遠い。
「……あれが傭兵団か」
護は森の茂みから身を伏せて様子をうかがう。
金属鎧に身を包んだ人間たちは、泉の中心で巨大なポンプとパイプを設置していた。
周囲には魔除けの呪符と、携帯型の魔法障壁。
ただの傭兵ではない。訓練された部隊だ。
「エイミー、結界を無効化できるか?」
「少し時間をもらえれば……やってみますわ」
「コニちゃん、突撃は最後の手段だよ。合図があるまで我慢してね」
「うぅ~、ガマンするぅぅ……早くぶっ壊したいよぉ……」
「じゃあ俺は先に一品作っとくで」
「……何を?」
「腹減ってたら力出ぇへんやろ。ほら、焼き肉丼」
護が微妙な顔をする間に、作戦は開始された。
エイミーの呪術が結界の基礎魔法陣に干渉し、音もなく障壁が崩れ落ちる。
その瞬間、護が跳ねるように飛び出した。
「今だ!」
爆竹のような閃光玉が傭兵団の中央で炸裂。視界を奪われた彼らに、デフリーが大鍋を持って突撃する。
「喰らえ! 戦闘支援スープっ!」
傭兵の一人が煮えたぎるスープを顔面に受け、悶絶。
その混乱の中、護は素早く背後を取り、隊長格の男の喉元に短剣を突きつける。
「動けば、切る」
傭兵団は動きを止めた。
……が、次の瞬間、別働隊が茂みから突撃してくる!
「っ、増援か!」
「コニちゃん、今だッ!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!ドスコイ!」
森が揺れるような咆哮とともに、コニちゃんが突撃する。
魔法障壁を拳で砕き、重装兵を薙ぎ払う。
怒涛の破壊まさに“破壊王”の異名にふさわしい暴れぶり。
「この……怪物め!」
「怪物じゃないもん! 元・アイドルぅうう!!」
戦場は混乱を極めるが、護は冷静に全体を制し、ついに傭兵たちは降伏を余儀なくされる。
勝利の余韻が残る中、護は傭兵隊長の遺品から分厚い書類の束を発見した。
「これは……?」
エイミーが読み上げる。
「“勇者転生計画 第七期対象:日本国民 候補者リスト”……? なにこれ……人間の軍が、意図的に異世界に勇者を転生させてる……?」
「しかも、次の候補はすでに送り込まれた……日付が……昨日?」
護の手が震える。
「予定より……早い。何かがおかしい……このゲーム世界に、何かが起きている」
月明かりに照らされたミリュアの泉が、淡く赤く染まっていた。
護はその光景に、説明のできない不安を感じ
思わず、身震いした。
「……やばい。これは、いつものゲームじゃない。何かが、本当に動き出してる……」
その頃、転生勇者アレスはオーク族の村を蹂躙して殺戮。壊滅をさせていた。




