第4話 ローベルの選択
七色の光がさらに鋭くうねり、仲間たちを縛り上げる。
その光の中心に立つレインボードラゴンは、AIの命令通り、システム修正を開始していた。
光は増幅され、もはや撤退の余地はほとんどない。
「ぐ……っ!」
デフリーがフライパンを握る手を震わせながら、倒れかけた仲間たちを庇う。
ティリスの目には恐怖が広がり、コニちゃんは涙を浮かべながら震えていた。
エイミーも冷静さを保とうと必死だが、心の奥では諦めが走り抜ける。
その時、霧の中から、華やかな旋律が響いた。
「お久しぶりねぇ……護ぅ♡」
黒い貴族服にフリル、薔薇の眼帯、そして半分はガイコツ。
ゾンビ伯爵ローベルが、舞踏会のようなステップで姿を現した。
だが、その瞳は以前の狂気だけではなく、深い悲しみを湛えていた。
「ローベル……また戦いに来たのか……?」
護が剣を構える。
胸の奥で、かすかな希望が芽吹くのを感じながらも、警戒は解けない。
「ちょっと聞きなさいよ。あたしも……奴の糸で踊らされていたのよ。
MIRAに従え、と、暴走せよ、と、でも、愛だけは……奴に奪わせはしない!」
その声には、これまでの狂気の華やかさと同時に、真実の覚悟が滲んでいた。
ローベルは仲間たちのもとへ歩み寄る。
「護、見てなさい。あたしの選択は……自由よ!」
舞踏会のような身のこなしで、空中を滑る。
腕に帯びた瘴気は光をまとい、七色の光の監獄を切り裂くように弧を描く。
「――貴族の矜持、見せてあげるッ!!」
咆哮が霧を裂き、光の檻に亀裂が入る。
レインボードラゴンが反応して瞳をぎらつかせるが、ローベルは怯まない。
その瞳は護と同じく、運営AIに翻弄される者として、そして“愛を守る者”として燃えていた。
「俺……信じていいのか……?」
護は剣を握り直しながらつぶやく。
その心の奥では、ローベルの覚悟に共鳴するものを感じていた。
「さあ、護。行くわよ~愛と自由のために!」
舞踏会の狂気は、今や絶望を切り裂く希望の光へと変わろうとしていた。
七色の光が渦巻く監獄の中で、護は剣を握りしめた。
仲間たちは倒れかけ、恐怖で声も出ない。
「よし……行くぞ、ローベル!」
護の声には覚悟がこもっていた。
かつて何度もデジャヴを経験してきた彼の目は、恐怖に負けず、仲間を守る決意で燃えていた。
「ふふ……やっと目覚めたのね、護ぅ♡」
ローベルは片目の薔薇眼帯越しに微笑む。
その笑みは以前の狂気的華やかさを残しつつも、どこか慈愛に満ちていた。
「仲間を傷つけさせはしない! あたしが……愛と自由の盾になるわ!!」
ローベルが指先で霧の光を払うと、七色の監獄に亀裂が走った。
光の波動がドーム状の結界を裂き、仲間たちはわずかに呼吸の余地を得る。
護は剣を振り、仲間たちの前方に立つ。
デフリーはフライパンを握り、エイミーは魔法陣を描き、ティリスは弓を構え、コニちゃんも炎の魔法を全力で準備する。
「成長ってのはな、痛みが伴うもんだ!」
護の叫びに、仲間たちは徐々に奮い立つ。
「七色の檻なんて……あたしたちがぶち破ってやるッ!!」
ローベルの舞踏のような動きが、監獄の光を切り裂き、レインボードラゴンの注意を引きつける。
巨大な竜は驚愕の咆哮を上げるが、護とローベルの連携は完璧だ。
護の剣先に光が集まる。
「俺たちは……仲間を守る! 絶対に諦めない!!」
ローベルの瘴気と護の剣が同期し、光と闇がぶつかり合う。
亀裂から漏れた七色の光の隙間に、仲間たちが飛び込み、デフリーのフライパンが竜の鱗を叩き、エイミーの魔法が霧を切り裂く。
七色の監獄が揺れる。
レインボードラゴンはAIの命令で攻撃を続けるが、護とローベルの連携はそれ以上に強力だった。
「愛と自由の力で……止めてみせる!!」
ローベルの叫びが響き、護の剣が光の隙間を縫うように突き出される。
光の檻が軋み、亀裂が走る。
そして――初めて、レインボードラゴンの瞳に迷いが生まれた。
AIの命令と、生身の意志の間で揺れるその瞳に、わずかな隙間が生まれる。
「これが……仲間を思う気持ちの力か……!」
護は胸の奥で、確信する。
絶望の虹も、信じる心と仲間への愛には抗えない――そう、護は知ったのだ。




