第4話 平原を抜けて、エルフの森へ
進化と訓練を終えた仲間たちは、新たな土地へと歩みを進めた。
彼らが向かったのは、霧の向こうに広がる《エルフの森》。
そこは、今までのように自分たちが支配した土地ではなく、
「他種族の領域」だった。
「なんか……空気が違うな」
デフリーがフライパンを背に、ぽつりとつぶやく。
確かに、森に近づくにつれ風が湿り、植物の密度が異常に高くなっていく。
小動物の気配は消え、鳥すら囀らない。
「気をつけろ。ここはエルフの縄張りや」
護が低い声で言った。
エルフ。
人間と見間違うほどの容姿を持つ高貴な種族。
だが、魔物に対しては強い敵意と猜疑心を持つことで知られていた。
その理由は、かつてエルフの森がオーク軍に蹂躙された歴史にある。
以来、彼らは魔物すべてを“侵略者”と見なし、
森の外から来る者には容赦なく罠を仕掛けていた。
――バシィン!
「うわっ!? なんやこれッ!!」
一歩、森の結界を超えた瞬間、護の足元が光った。
次の瞬間、空中から無数の魔力のワイヤーが飛び交い、
一行を絡め取った。
「しまったッ!」
コニの腕も、エイミーの尾も、デフリーのフライパンも、
すべてが瞬時に封じられた。
動けない。呼吸すらままならない。
冷たい緑の霧が舞い落ち、周囲に弓を構えた者たちの影が現れた。
「貴様ら……この森に入る資格はない」
それは美しくも、鋭い声だった。
姿を現したのは、金の髪、赤い瞳、水色の肌をもつ異彩の存在。
ダークエルフの女戦士ティリス。
「魔物ども……この森を穢すつもりか?」
彼女の矢が、真っ直ぐに護の額を狙っていた。
「……お前ら、ほんまに人間寄りやな。俺たちが何をしに来たかも、聞かんのか」
護が低く唸るように言った。
「問答無用。森の掟は“まず排除”、話はその後だ」
その目は冷たく、情け容赦のない戦士のそれだった。
初めての“他種族の地”。
そこには、今までとは違う力と、違う論理が支配していた。
エイミーがそっと言った。
「……護、どうするの……?」
だが、その問いに答える前に、彼らの視界は眩い閃光に包まれた。
運ばれていく。
どこか、深い森の奥へと。
魔物の支配が通じない、異文化と隔絶の森へ。
護たちの旅は、いよいよ“文明との接触”という次の段階へと進むのだった。




