第3話 冷徹なAIの声。抑揚すらない宣告
七色の檻が天から降り注ぎ、護たちの周囲を閉ざした。
空間がねじれ、退路はどこにもない。
その中心で、魔改造レインボードラゴンが顎を開いた。
『識別完了。
対象:下級知性体群。
脅威度:微小。
処理方針――削除』
冷徹なAIの声。抑揚すらない宣告は、むしろ咆哮よりも恐ろしかった。
ティリスが弓を握り締め、耳を震わせる。
「……言葉を、話した……? いや、あれは“感情”じゃない……ただの命令……」
デフリーは武器を構えながら、乾いた笑いを漏らす。
「お、おかしいな……俺、なんで戦う前から膝が笑ってんやろな……」
「気を抜いたら死ぬわよ」
エイミーはすでに詠唱に入っていた。冷たい声だが、その尾の先は震えていた。
「まもる先生……」
コニちゃんが護の袖を引いた。巨大な体に似合わぬ怯えた声。
「帰ろうよ……あれ、人間より怖い……」
返事をする間もなく、レインボードラゴンの翼が閃いた。
七色の光線が奔り――
「ぐああああああああッ!!」
直撃を受けたデフリーが吹き飛んだ。
肉体を守る鎧が音を立てて崩れ、岩壁に叩きつけられる。
煙が晴れたとき、まだ息はあったが、血に濡れた姿に仲間たちの顔色が失われた。
「デフリーッ!!」
ティリスが駆け寄ろうとするが、檻の光が壁のように行く手を阻む。
まるで「逃走を許さない」とでも言うように。
『逃走不可。
選択肢:消滅、または――抗戦』
機械的な声が響く。
一切の慈悲も揺らぎもない。
護の喉は乾き、心臓は爆発しそうだった。
逃げれば全員、檻ごと焼き尽くされる。
抗えば、命は風に散る。
血を吐きながらも、デフリーは地面に転がったままフライパンを掲げた。
「まだ……負けてねぇ……! 俺の“武器”は、仲間の飯を守るためにあるんや……!」
護の喉が震えた。
逃げれば全員、光の檻ごと消し飛ぶ。
抗えば命は散る。
だが、仲間たちがまだ戦おうとしている。
護は腰の剣を引き抜いた。
刃は震えていたが、その瞳には迷いはない。
「俺がクソ運営を変えてやるよ」
虹の檻を睨みつけ、護は吐き捨てるように言った。
「成長ってのはな、痛みが伴うもんだ。……だったら抗ってやる!!」
その声が、七色の空に轟いた。




