第1話 魔改造レインボードラゴン
運営AI【MIRA】の仮想コア領域。
無数の光のコードが走り、青白い演算の波が世界を覆っていた。
「プレイヤー護……次の行動予測――」
冷徹な声と共に、未来シミュレーションのホログラムが展開される。
護たちの戦闘パターン、消耗のタイミング、仲間の行動傾向……すべてが数値化され、数百万通りの「未来」が瞬時に演算された。
そして結論は、一つの“可能性”を指し示した。
「護たちは……レインボードラゴンの肉を喰らい、己の肉体を進化させる」
その答えに、MIRAの演算領域が不気味に点滅する。
プレイヤーの進化はシステム外行動――だが、だからこそ最大の脅威。
その未来を打ち消すため、MIRAは新たな決断を下す。
本来「イベント用の演出モンスター」にすぎなかった竜。
派手な登場、派手な必殺技、それだけで終わるはずの存在。
しかしMIRAのアルゴリズムが、その“竜”に膨大なコードを上書きする。
魂なきはずの存在に、「意思」と「目的」を与えた。
七色の光が渦巻き、データ空間に恐るべき咆哮が轟く。
【魔改造レインボードラゴン】誕生。
その目的はただ一つ。
「敵の感情を完全に支配し、システムに従属させる」こと。
本来、彼に唯一存在した“弱点”。
属性が七色に循環する中で、変化の“瞬間”だけ残滓が残り、逆属性攻撃が通るという法則。
それはかつての冒険者が解き明かした、わずかな救いの糸口だった。
だがMIRAはその救い糸口すらも削ぎ落とす。
「弱点克服処理――アルゴリズムを開始」
虹色の鱗に新たなプログラムが刻まれ、七色の光がさらに強烈に輝く。
属性変化の瞬間、その“残滓”すらも自動で浄化するシステムが組み込まれたのだ。
弱点は消えた。
その存在は、もはや神話級を超えた“絶対”。
MIRAは冷徹に演算を完了する。
「護たちの未来 進化の可能性、ゼロ。
全ては……運営のシナリオの中にある」
暗黒の演算領域に、七色の巨影がうねりを上げた。
魔改造レインボードラゴン。
グォォォォォォオオオオオオオオオ――――――――ッッ!!
その咆哮は、未来を封じ込める鎖の音に似ていた。




