第6話 洋館での癒やしと旅立ち
霧が晴れ、森はいつもの静けさを取り戻していった。だが、倒れた仲間たちの息遣いはまだ浅く、戦いの痕跡が生々しく残っている。そんな中、そこに立っていたのは――愛の白衣をまとった、かつての粛清執行官、今は自称「進化した」オカマゾンビ、ローベルだった。
白衣の裾には血と薔薇の花びらが混じり、片目の薔薇眼帯は少し斜めを向いている。しかし、彼の手は驚くほど優しく、慣れた手つきで仲間たちの傷を縫い、瘴気を払っていく。糸を引くたびに、瘴気が小さく弾け、仲間たちの顔色がゆっくり戻ってくる。
「お熱いのは苦手でしょ? よしよし、これで一つ完治。森のミルク療法は侮れないわよ♡」
ローベルはふんわりとした口調で言いながら、デフリーの肩をそっと整え、エイミーの槍先の擦り傷に生薬パックを当てる。彼の白衣は医師のそれというよりは舞踏衣装に近いが、技術は確かだ。
仲間たちは徐々に回復し、うめき声は安堵の息に変わっていく。ティリスは渋い顔でローベルのやり方を観察しつつ、どこかほっとしたように肩を落とした。コニちゃんはまだ半分ぼんやりしているが、目に力が戻る。
護はその光景を少し離れた場所で見つめていた。血で汚れた手を握りしめ、何度も小さく首を振る。ローベルが近づくたびに、護は一歩、二歩と後ずさりした。
霧に包まれた洋館の前。
傷ついた仲間たちのもとに、黒いフリルの裾をひらめかせながら、ゾンビ伯爵ローベルが両手を広げて叫ぶ。
「アタシの胸の中に飛び込んでらっしゃい!
腐っても、美しく気高く……これが!ゾンビの愛ィィィ!!」
薔薇眼帯からギラリと光。
彼の背後ではゾンビ部下たちが一斉に合唱する。
部下ゾンビたち
「アイーー!アイーー!ゾンビの愛ーー!」
護は顔を引きつらせて後ずさり。
護
「いやいやいや!無理だから!俺そういうの求めてないから!」
ローベル(迫りくる)
「フフ……照れちゃってぇ♡ ほら、アタシの糸で縫合されてごらんなさい!傷も心も、ぜ~んぶ癒してあげるッ!」
護(必死)
「癒やし方がおかしいだろ!?ゾンビ縫合で一生縫い付けられるとか、悪夢でしかない!!」
ローベル、さらに熱を帯びて叫ぶ。
ローベル
「愛は!AIでも洗脳でもないッ!
腐敗しても残る純粋な情熱ッ!!
アタシと一緒に永遠に舞い踊りなさァァイ!!」
護、青ざめながら両手をブンブン振る。
護
「お断りだーー!!俺は絶対ゾンビの愛なんか受け入れねぇぇぇ!!」
森にこだまするのは、ゾンビの群団の合唱と、護の悲鳴だった。
月日はゆっくりと流れた。
ローベルの手当ては評判となり、傷が癒えるたびに隊の士気は回復していく。護は逃げたり、照れたり、また逃げたりしながらも、少しずつローベルのそばにいる時間が増えていった。仲間たちの間には奇妙な日常が戻り、夜ごとにローベルが作る“毒抜きスープ”(見た目は派手だが効能は確か)が評判を呼ぶ。
そしてある朝、護は仲間たちとともに新たな地図を広げた。
「次はレインボードラゴンの谷だ。そこに進化のヒントがある」ティリスが言う。
デフリーは大きく頷き、エイミーは静かに同意する。コニちゃんは目を輝かせている。
護はローベルの方を見た。彼は白衣の裾をひらりとさせ、派手に一礼した。
「行くわよ、隊長。永遠の愛ゾンビへの道は、まだまだ始まったばかりだもの♡」
護は顔を赤らめたような、ただの風邪のような顔で苦笑する。けれど胸の奥にある決意は確かだった。仲間を守り、MIRAに抗い、そして自分たちの“進化”を果たすために――。
こうして、俺たちは新たな進化を求めて再び旅立った。
霧の彼方に広がる道を、愛と瘴気と笑いを携えて。永遠かどうかは分からないが、確かなのは――この愉快で奇妙な連中と一緒なら、どんな運営だって蹴散らせる、ということだけだった。




