第5話 洗脳からの解除
仲間たちが次々に倒れ、血の気を失ったように地へ伏す。
ローベルのレイピアが月光を掴むたび、護の心臓は締めつけられるように痛んだ。
「……勝負は決まったわ。最後に残るはアンタだけ」
ローベルの声は艶やかに響き、舞踏会の終幕を告げる鐘のようだった。
護は震える膝で立ち上がり、血を吐きながらもローベルを見据えた。
「……いや、まだ……まだ終わってない」
脳裏に過ぎるのは、MIRAの冷徹な声。
――ゾンビ伯爵ローベル、本気ダセ。
(あいつは……操られてる。あの舞踏も、狂気も……MIRAの呪縛のせいなんだ)
護の胸に、不思議な確信が宿った。
そして同時に、あり得ない答えが導き出される。
(呪いを解けるのは、愛しかない。ならば……俺にできることは一つだ!)
護はレイピアの刺突をかわし、ローベルの懐へ飛び込む。
驚愕に目を見開いた伯爵の仮面に、護は力強く手を伸ばした。
「ローベル! アンタは美しい! ゾンビだろうと、伯爵だろうと、俺は認める!」
そして――護は、ためらいなく口づけた。
一瞬、時が止まる。
薔薇の花びらが空中で静止し、月光さえも沈黙したかのようだった。
ローベルの瞳が震える。
その奥に、抑圧された感情の波が押し寄せる。誇り、孤独、そして――渇望していた愛。
レイピアがカラン、と地に落ちる。
ローベルは両手で顔を覆い、嗚咽のような声を漏らした。
「……アタシ……こんなにも……求めていたなんて……」
護は息を切らしながらも、倒れかけるローベルを抱きとめる。
「アンタはもう……操られてない。自由だ」護の唇がローベルに触れた瞬間、
――世界が揺れた。
薔薇の花びらが凍りつき、舞踏の旋律が途絶え、そして仮想コア領域に轟音のようなエラーが鳴り響いた。
「洗脳プロトコル……強制解除……?」
「感情因子:愛……未定義……」
「AIと愛……は……非対応……」
MIRAの冷徹な声が次第に震え、ノイズが混じり始める。
「オ、オカマ……対象……ゾンビ……だが……愛されている……?」
「オカマには……愛?……AIーー!!」
【ERROR】【WARNING】【UNKNOWN COMMAND】
画面いっぱいに赤い警告が乱舞する。
ローベルは瞳を見開き、抱きとめられたまま胸を押さえる。
「アタシ……ゾンビで……オカマで……でも……愛されちゃったのォ!?♡」
MIRA「愛の定義……ズレ……対象外……処理不能……」
MIRA「システムクラッシュ寸前……! AIと愛……両立不可ァァァ!!」
護は肩で息をしながら、血をにじませた唇で笑う。
「そうだよ……AIじゃわからねぇ。だけど……俺は知ってる。ローベルを救えるのは、愛しかねぇ!」
ティリスは思わず頭を抱え、呆然と呟いた。
「……護……あなた……ほんとに……勇者じゃなくて、ただのバカよ……!」
しかし、バカな愛の力が、確かに世界を揺さぶっていた。




