第1話 MIRA改造ゾンビ伯爵ロベールとの初遭遇
霧が立ちこめる薄暗い森の奥、木々の間から、不意に黒い影が現れた。
ぽつりと佇む洋館――薔薇の蔦が絡まり、古びた壁面は湿気でぬめりを帯びている。その前に、妖しく光る片目の人物が立っていた。
黒のフリルつき貴族服、上品に巻かれたウィッグ、片目には薔薇の眼帯……しかし顔の半分は白骨が覗く。
「運営MIRAちゃんから、スペシャルな力をもらってねぇ♡ アンタたちを……一匹残らずゾンビにしてあげるッ♡」
声は艶やかで、甘美な高音。だがその言葉に、背筋が凍るような威圧感が混ざる。
「アタシの舞踏会へようこそぉ~♪ 腐っても、貴族ですのよ?」
スカートのようにフリルがひらりと揺れ、薔薇の棘がちらりと光った。
ロベールは一歩踏み出すたび、地面に黒い瘴気が広がり、森の空気を腐らせていく。
「そのお顔、ちょーっとお直しが必要ね……ゾンビフェイスに♡」
突然、両腕を大きく広げると、洋館の影からゾンビの群れが蠢き出す。
一瞬で周囲を取り囲む数十体の亡者。だが、彼の華やかな仕草と笑い声は、まるで舞踏会の開幕を告げる序曲のようだ。
「オッホホホホホッ!! ゾンビでもね、気高く、美しくッ!!」
その瞬間、フロアの木々が勝手に動き、蔦がまるで舞台装置のように波打ち、護たちを精神的に追い詰める。
ティリスは弓を構えるが、視界の端にチラリと動く影に、思わず目をそらす。
「生きてるのがそんなに偉いと思ってるの? あらやだ、時代遅れよぉ♡」
ロベールの笑い声が、森の霧に反響し、まるで空気ごと笑い飛ばされそうになる。
護まもるは背後の仲間たちに目をやり、低く呟く。
「……こいつ、ただのゾンビじゃねぇ。舞踏会の支配者だ……」
森の奥、不気味な洋館の前で、戦慄と華やかさが混ざった“異形の舞踏会”が、今、始まろうとしていた。
霧が深く立ちこめる森の奥、不気味な洋館の前で、ゾンビ伯爵ロベールは優雅に両手を広げた。
「オッホホホホホッ!! 腐っても、貴族ですのよ♡」
スカートのフリルが風に揺れ、片目の薔薇眼帯が薄暗い光を反射する。その半分は白骨、半分は生きているかのような皮膚。まるでこの世のものとは思えない姿だ。
そして、洋館の扉がゆっくりと開き、暗闇から何体もの影が蠢き出す。
黒ずんだ軍服に身を包み、腕や首に瘴気が絡みつくゾンビたち――
ロベールの部下たちが、まるで舞踏会の招待客のように整然と並び、護たちを囲んだ。
「アタシの舞踏会へようこそぉ~♡ でも今日は特別に、アンタたちだけが主役よ♡」
その声に合わせて、部下たちが一斉に前進する。
ただの歩みではなく、舞踏会のステップのように優雅に、しかし確実に距離を詰めてくる。
護まもるは仲間を見回す。
ティリスは弓を構え、エイミーは長槍を握り、デフリーは前に出て構えた。コニちゃんも小さく息を吸い込む。
「……数、半端じゃねぇな」
「護隊長、ど、どうします……?」
護は一瞬、足元の落ち葉に目を落とした。
霧の向こうに見える黒い影は、ただのゾンビではない。
一体一体が、瘴気と狂気をまとい、ロベールの威厳と華やかさを引き立てる“舞踏会の参加者”なのだ。
「……まずは様子を見ろ。ロベールの狙いは、俺たちを直接潰すことじゃねぇ。心理戦だ」
「心理戦……?」
「そうだ。こいつ、戦う前から精神を削りに来てる。舞踏会の演出で、こっちを焦らせるつもりだ」
部下たちの足音がリズムを刻み、霧の中で揺れる影が揺らめく。
ロベールの笑い声とともに、森全体が不穏な空気に包まれた。
「……うぅ、早く動かないと、視界と心がやられそうだ」
護は深く息を吸い込み、仲間たちに小さくうなずく。
「油断するな。あいつら、まずは圧で潰してくる――戦闘はその後だ」
霧に包まれた洋館前、ゾンビ伯爵ロベールの“死の舞踏会”が、今、静かに幕を開ける。




