第6話 自動制御の運営AI【MIRA】、シュウセイ処理動く
ゴブリンの森の洞窟。その最奥、玉座の間。
祭の後のような静けさの中、護は丸太の王座に座りながら、香ばしい肉の香りと、仲間たちの笑い声に包まれていた。
「はいはい、お待たせしましたっ! 本日のメインは魔界鹿の香草ロースト! 炭火で三時間、皮ごとじっくり焼きました!」
デフリーが、巨大な丸皿を持ち上げて誇らしげに叫ぶ。
「料理は愛情。端正に、丁寧に、美味しくいただく、ですから!」
その言葉に、護は懐かしさと温もりを感じる。
「お前、ほんとブレねぇな……」
「もちろんですとも、護隊長!」
一方、隣の丸太ではエミリーが無言で虫かごを開き、緑の芋虫をペロリ。
「……朝露の味。今朝と少し違う」
護は笑いながら、思わず訊いた。
「食レポしなくていいからな、それ」
コニちゃんはその様子を見てけらけらと笑っていた。
「エミリー、今日も虫ぺろぺろしてる~! コニちゃん、それ見て元気出た~!」
「うるさい……静かに、して」
「ひぃっ、怒られた! でも元気~!」
そのやり取りに、ティリスはふっと目を細めた。
焚き火の灯りが揺れるたび、彼女の銀髪がきらめく。
「……みんな、賑やかね。まるで“同窓会”みたい」
護はその言葉を聞き、内心でひっそりと呟いた。
(同窓会、か。そうだよな……みんなと出会ったのは、もうだいぶ前。けど、こうしてまた集まって……)
(なんだかんだで、俺だけ妙に感慨深くなってる気がするのは……転生者の特権か?)
護は目を細め、笑った。
「まったく……贅沢なスローなNPCライフだぜ、これは」
その瞬間
ドタバタバタッ!
「た、大変です族長ぉー!!」
洞窟の奥から、小さなゴブリンがすっ飛んできた。
顔は真っ青、息は絶え絶え、足はもつれそうだ。
「なんだ、そんなに慌てて……」
「で、でっかいんです!! でっっっかい鋼の巨躯のモンスターが……っ!」
「モンスター?」
「は、はいっ、しかも、こっちのゴブリンを殺しまくってるんです!
そいつ、叫んでるんですよ!!」
「なんて?」
ゴブリンの声が震える。
「“マモルはドコダ……?”って……!」
その瞬間――
ピシィ……!
玉座の間の天井が微かに震えた。まるで、重機のような何かが地を揺らして近づいてくる。
護の目が、細く鋭くなる。
「……運営のやろう、てめぇ……来たのか」
ティリスの瞳が冷たく光り、弓を手に立ち上がる。
エミリーは虫かごを閉じ、舌をゆっくりと巻き取り槍を構えた。
デフリーは炭火の下から肉包丁を取り出し、構えを取る。
コニちゃんは、干し肉を咥えたまま、ふんっと鼻息を荒くした。
「マモルせんせい……戦うの?」
「ああ」
護はゆっくりと立ち上がり、焚き火の明かりの中、仲間たちを見回した。
「運営が俺たちの“世界”に手ェ出してきたんだ。だったら、迎え撃つしかねぇだろ」
「了解」
「虫は避けてくれたら手伝う」
「任せてください、炭火で焼いてやりましょう」
「どすこい、どすこぉぉぉい!」
護は一歩、前に出た。
「さぁ、行くぞ。玉座を空けるときが来た。次は、“運営”との真っ向勝負だ」
こうして、玉座の間から、護と仲間たちは出撃した。
暗く長い洞窟の先。そこに待つのは、自動制御の運営AI【MIRA】が放った、破壊の巨影。
超巨大型ボス級魔物 クリスタル・デバステーター
かつてない戦いが、いま始まる。




