第5話 あのレアキャラ、ダークエルフを仲間にできるかも?新イベントは鰻登り
「巨大なモンスターの敵、風上から来る。四体。高度およそ二十メートル」
夜明け前の高台で、ダークエルフのティリスが低く呟いた。
その指先には銀糸のような魔弓《月影の糸弓》。冷たい月光を受けて、鏃が青く光る。
「風読んで矢を添え、構え三息、放て――」
放たれた矢は闇を裂き、風を切り裂き、そして
ズドォン!
空を飛ぶ魔獣が次々に爆散する。
護はその光景を、口元に笑みを浮かべながら眺めていた。
「……よし、やるか。ティリス、正式にお前を“イベント目玉キャラ”にする」
「え……イベントに、私が……?」
「そうだ。“ダークエルフとの共闘バトル”。しかも上位ランカーには、ティリスを仲間にできる可能性をつける。これでログイン率、鰻登り間違いなしだ」
「ま、待て、それは誤解を……そ、そう簡単に仲間になるわけじゃ……!」
「報酬説明には“仲間になってくれるかもしれない”って書いておけばOKだ」
「護っ……! 誤魔化しだろう、それ!」
「いやいや、“エルフ語での契約”ってことで曖昧にすれば問題ない。プレイヤーの想像力に委ねるんだよ。わかるか?」
ティリスの尖った耳がピクリと揺れ、先端がほんのり赤く染まった。
「こ、こういうのは……もっと、清く、誇り高く……っ!」
「ユーザーは期待してるぞ。お前の“無表情でちょっと照れる感じ”、人気出るからな」
「も、もう勝手に話を進めないでッ!でもちょっと面白そう。」
《飛べ!ダークエルフと空中討伐イベント ~月光の戦姫 ティリス降臨~》
・内容:空を飛ぶ魔物を弓で撃ち落とし、コンボと命中率でスコアが伸びる
・報酬:” ランク報酬に“月影のエルフの装備品”
上位3名には「ティリスを仲間にできる可能性アリ」!
・ティリス専用ボイス付き:「……し、仕方ないから共闘してあげる」
・ユーザー間で噂される:「ツンデレすぎてエルフ沼すぎる」「え、射抜かれたい(意味深)」
イベント開始と同時に、かつてないほどのログイン数を記録。
サーバーの端がミシッと軋むような勢いで、久々にゲーム内は賑わいを見せた。
護は焚き火の横で腕を組み、デフリーやエミリーたちとユーザーの動きを眺めていた。
「来てる、来てるぞ。これはゲーム革命だ。俺たちNPCが、世界を変えてる」
◆ □ ▼ ■ ◇
だがその裏で、静かに、しかし確実に危機が進行していた。
自動制御の運営AI【MIRA】
その仮想コア領域で、青白い光が警告を点滅させていた。
「システム外イベント生成……確認」
「NPC権限超過……確認」
「ログインアクティビティ上昇率:過去最大」
「異常レベル:MAX」
MIRAの判断アルゴリズムは、冷徹に結論を出す。
【現システムの安定性を保つには、“ホブゴブリン・護”の削除が必要】
だが護は通常のNPCではない。削除コードでは無効。
ならば――直接的な戦闘的制圧処理。
MIRAは手を打った。
かつてイベント用に封印されていた、超大型ボス級魔物
プレイヤー4人パーティでも全滅率90%とされた“バランスブレイカー”。
その封印を解く。
「排除対象:護。ロケーション:魔界フィールド座標C-7」
音もなく、漆黒の裂け目が天に走る。
その先から“システムの怒り”が具現化したような、鋼の巨躯が現れた。
そして、MIRAはただ静かに呟く。
「シュウセイ処理、カイシ」




