第4話 ホブゴブリンの護、どすこい相撲の新イベントを開催
笑顔で手を振って走ってくる巨体少女?
「護せんせーい! 今日のおやつ、干し肉と激辛せんべいでいい?」
朝日が差し込む洞窟の広場に、ひときわ大きな声が響いた。
大地がドシン、ドシンと揺れるような足音とともに現れたのは、トロール族のコニちゃん。
ずんぐりした巨体にくるくる変わる表情。
その手には、ちゃんと干し肉とせんべいの袋が握られている。
「……おい、言ったろ。人間の肉は絶対NGだぞ?」
「大丈夫! これは鹿さんの干し肉! 人間は……まだ我慢してるっ」
コニちゃんはニッコリ笑って親指を立てた。
護はそんな彼を見ながら、ひとつのアイデアを思いつく。
「……癒し系で、見た目インパクト抜群。そして本人はめちゃくちゃ力持ち。コニちゃんは“土俵”向きだな」
「どひょー?」
「相撲だ。でっかいお前がでっかい声で押し出せば、そりゃあもうイベントとして盛り上がる。よし、次の企画は決まった」
その名も《どすこい魔界大相撲 ~押し出せ!トロール杯!~》
護は即席で土俵マップを生成。岩を積み上げて見事な丸い土俵を作り、エントリーNPCたちのスキルに応じて“相撲用ステータス”を組み上げていく。
・筋力がそのまま押し出し力に変換
・技量が“うっちゃり”や“かわし”の判定に反映
・コニちゃんにはNPCチャンピオン枠として公式登場!
そして始まった魔界大相撲大会。
ログインしたユーザーは口を揃えて言った。
「え、何これ? デカいトロールがどすこい言ってるんだけど」
「ていうかあの子……可愛い!?」
「出会ったらラッキー? 幸運トロール伝説、爆誕!!」
「どすこいどすこぉぉぉいッ!!」
コニちゃんがゴブリン4体をまとめて吹き飛ばす。
遠くで見ていたエミリーがぼそりと呟く。
「……虫なら、瞬殺……」
だが、土俵の上では真剣そのもの。
汗をかいて、息を切らして、でも満面の笑顔で――
「コニちゃん最高!」
「癒される!」
「結婚して!」
人気はうなぎのぼり。
一部のユーザーからは「出会ったら幸運がアップする」なんて噂まで立ち、レアモンスター的なアイドル的存在に。
護はその様子を遠巻きに見ながら、腕を組んで満足げにうなずいた。
「……“強さ”だけじゃない。“愛される存在”がプレイヤーを呼ぶ。やっぱりイベントは、心を動かしてナンボだな」
そこへコニちゃんが満面の笑みで走ってくる。
「護せんせーい! 今日の優勝賞品、“干し肉一年分”でもいい?」
「お前、それただ食いたいだけだろ……」
護は呆れながらも、土俵の真ん中でぴょこぴょこと跳ねるコニちゃんを見て、心のどこかで確信していた。
このゲーム世界は、まだ生きてる。俺たち次第で、もっと面白くできる。
◆ □ ▼ ■ ◇
しかしその裏で、かつてないほどのアクセスログの異常を検知した存在がいた。
それは、ミラージュコード社の自動運営AI――【MIRA】。
冷徹なアルゴリズムの奥で、青白い瞳が光を放つ。
「……予期せぬプレイヤー復帰……ユーザー満足度急上昇……システム外改変……対象:ホブゴブリン・護」
電子ノイズのような声がシステム内に響き渡る。
「リスク判定:高。介入レベルを上昇“修正パッチ”処理を開始します」
護たちの祝祭の裏で、【MIRA】は着々と破壊的アップデートの準備を進めていた。




