エピローク 闘いの後とコーチの帰還
夕陽が沈みかけた戦場に、静かな風が吹き抜ける。
地面には倒れた人間の魔王の影と、傷ついた勇者たちの姿があった。
瓦礫に腰を下ろし、深く息を吐くリュミエール。
スライムの体がまだ小刻みに震えている。
「ふぅ……あたしの体も、もう限界みたいね。でも……みんなで勝てて、本当によかったわ♡」
彼女は笑顔で、周囲を見渡した。
一方、少し離れたところでロベールが優雅に膝をつき、手を胸に当てている。
「ふふっ、あんな荒くれた戦いのあとでも、わたくしのドレスが無事で何より……それに、アタシの紅茶はまだ温かかったのよ♡やっぱり優雅に戦うのが、最高の勝利の証だわほほほほほ」
と、少し気取った口調だが、その瞳には安堵の色が浮かぶ。
ラ・ミューズは剣を鞘に収めながら、静かに空を見上げる。
「みんなが一つになったから、あんな化け物も倒せたんだ。私もまだまだだが……でも、これが“答え”なんだろうな」
と、かすかに微笑んだ。
そしてアレス。
汗と涙の跡が頬を伝うが、顔には強い決意が滲んでいる。
「みんな……ありがとう。一人じゃなにもできなかった。みんなと一緒だからこそ、ここまで来られたんだ」
静かに剣を握りしめる。
「これが、私たちの“勝利の光”だ――」
みんなが顔を見合わせて、静かな笑みを交わした。
それは言葉にできない、確かな絆の証。
風が吹き、夕陽が染める大地は、まだ傷だらけだけど、そこに生まれたのは、未来への希望だった。
仲間達はボロボロだった。
けれど、その瞳には確かに、“誰かと共に戦い抜いた”誇りが宿っていた。
スライム姫リュミエールはスライムティーで乾杯し、
ロベールは手縫いのハンカチで涙をふき、
ラ・ミューズは無言の笑みで頷いた。
そして、勇者アレスはひとり、空を見上げる。
(……コーチ見ててくれましたか?)
◆◆◆
あれから数か月後
風が吹きすさぶ、山奥の森の洞窟
その奥、かつて勇者たちが“最初の試練”で訪れたあの場所に、一つの影が帰ってきた。
「……戻ってきちまったな。ま、ここが一番落ち着くわけだが」
ホブゴブリンの護は、洞窟の奥深く、石の玉座へと腰を下ろす。
ずっと見てきた女勇者の成長を想い出していた。
洞窟の外から、風の声が届く。
『世界を救ったのは、ひとりの少女だったらしい。その名は、アレス・スカーレット。涙を見せない、最後の光の勇者……』
「そうか……ついにやったんだな、泣き虫勇者アレス・スカーレット……」
護はふっと目を細め、微笑を浮かべた。
そして、静かに立ち上がる。
「さてと、そろそろ伝説のブレイブ・レガリアのゲームがリセットの時間だ。次は……どんな勇者が、来るやらな」
自らの身体がゆっくりと光に包まれていく。
再び、“最初に倒されるはずのホブゴブリン護”へと戻る。これでゲーム魔人生三周目だ。
それでも、護は誇りを持って言える。
「この玉座で、いつでも待ってるぜ。あの子みたいな“本物勇者”に、また会える日をな……」
玉座の間に、静寂が戻る。
そして再び、洞窟の奥に新たな物語の始まりを告げる“冒険者の足音”が響いていた。
スピンオフ小説 2週目 ホブゴブリンの俺、泣き虫女勇者を自立させよ。
─ 完 ─
最後まで読んでいただき有難うございました。
現在
『孤独死おっさん 転生して異生活でバーサーカーになる。一発逆転パーリナイト!』を書いてます。
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