第7話 光と針と決戦のとき
魔王ヴァルドロ・アーク・セレスティアが降臨した。
対魔王決戦メンバー(出撃順)
◆スライム姫 リュミエール・メルメル=ド=トロワ
スライム体を持つ王女。魔法と変形能力を駆使する。
◆ゾンビ伯爵ロベール
元魔王四天王 不死の肉体と怨念魔術を使う死者の貴族。
◆白銀の子羊 ラ・ミューズ
人間と魔族の混血(ヒューマノイド×デモン)
◆勇者アレス・スカーレット
誰よりも人を信じ、涙なき決戦に挑む勇者。
◆ホブゴブリンの護(木陰より見守る)
一度、このゲーム世界をクリアしている転生者。現在コーチ
赤く爛れた空に、黒い閃光が走る。
禍々しい漆黒の翼を背負い、かつて人類至上主義を掲げた男、ヴァルドロが変異の果てに顕現する。
「さあ、お前たち進化の価値を見せてみよ。我が《選別》に値するか否かを」
◆第1陣:スライム姫 リュミエール・メルメル=ド=トロワ
「王族たるもの、威厳と柔軟性が命……さあ、覚悟なさい♡」
スライム体を竜巻状に変形させ、雷と水の魔法を融合して突進する。
だが
《純血の戒律》
魔王ヴァルドロがフィールドに展開した結界が、彼女の魔素を強制停止。
魔族・異種存在は“存在権”そのものを拒絶される。
「え……ちょっと、待って? わたくし……溶けてる!?」
体の粘性が崩れ、変形不能に。形状維持ができずその場でひしゃげてしまう。
「これは……っ、王女失格ですわね……♡」
その一言を残し、スライム姫は溶けた。トロトロに
◆第2陣:ゾンビ伯爵 ロベール
「あらあらまあまあ、アタシにまでお呼びがかかるなんて……いやねぇ、戦なんてお肌に悪いのにぃ♡」
ロベールは黒薔薇のブローチを整えながら、腐ったマントをふわりと舞わせる。
「でもまぁ、ヴァルドロさんたら。あんた本当にダメな子ね……人間至上主義? そういうの、今時モテないわよほほほほ」
死霊の霧が彼の足元から広がる。優雅な動き、まるで舞踏会。
「可愛い子にはお紅茶と日記帳を与えて育てるのが上流社会ってもんよォ!」
だが、その詠唱は
《光無き律動》により遮られる。
「……ちょ、ちょっと待ちなさいよォ!? アタシのスペシャル詠唱が音も光も消えちゃってるじゃないの!」
声が空気に飲まれ、命令が死霊たちに届かない。動かない。
「いやだわァ……アタシったら、久々の舞台なのに……!」
そして
《秩序の針》が発動。
空間から突き上げる“否定の杭”が、ロベールの魂核を貫く。
「きゃああああっ!! う、うそぉ……!? これって、刺繍針より痛いじゃないのよぉおおっ!!」
体がバラバラと崩れていく。
だがその瞬間、瞳が赤く光り
「……ま、まだ怒ってないわよ……? これくらい、朝の歯磨きより軽いんだから……っ!」
瘴気が立ち昇りかけた瞬間――アレスの制止の叫びが届く。
「ロベール! いま怒りに飲まれたら、お前が――!」
「フン、言われなくても分かってるわよォ……だって、アタシは……“優雅なレディ”ですものね♡」
ロベール、がその場を崩れながらも、最後まで上品に一礼するのだった。
◆第3陣:白銀の子羊 ラ・ミューズ
「俺が“半端者”だからって……誰の人生にも、意味はある!」
銀色の残光を引き、連撃を繰り出す。動きは最速。
だが
《進化圧》
ヴァルドロの「存在」そのものから放たれる超重圧。
接近者は、肉体と精神に“進化不適格”の負荷を受ける。
「ぐぅ……動け……くそっ、俺には……証明したい生き方が……!」
そして
《選別の審問》
ラ・ミューズの記憶が幻影の法廷に映される。
人間にも、魔族にも、居場所を得られなかった半生が浮かぶ。
「貴様はどちらの側にも立てぬ。ゆえに、未来にも立てぬ」
「それでも……守りたいものがあるんだよッ!」
裁定は進化に値せず。
体内の魔力循環が破壊され、ラ・ミューズ、沈黙した。
アレス・スカーレットは、血で汚れた顔を上げる。
その瞳には、恐怖も怒りもなかった。ただ、ひとつだけ。
“全てを終わらせる覚悟”
ヴァルドロの六枚の羽が広がる。圧倒的な力の象徴。
だがアレスは剣を下げない。
「――あたしは、泣かない。
誰かを守って死んだ仲間に……泣いてなんか、やらない」
一歩、踏み出す。
魔王の圧力が空間を潰すが、彼女の足は止まらない。
その背を、木陰のホブゴブリン護が見つめていた。
「……あの子、もう迷ってないな。勇者として覚醒しようとしている。」
アレスの剣が光を帯びる。彼女だけは、戦場で立ち続けていた。
彼女だけは。涙を流さず、この地獄を真正面から見ていた。




