第6話 魔王形態・ヴァルドロ、覚醒。
王城・地下実験棟。
震える大地の中心で、白衣を引き裂き、己に試薬を注ぎ込む男がいた。
「人間こそ至高。感情は弱さ。種の混血など、神への侮辱だ……!」
それが、かつて人類軍を支えた天才参謀。
錬兵大臣ヴァルドロの成れの果て。
骨が鳴り、肉が裂け、背から翼が生え、角がねじれる。
白銀の鎧を引き裂いた肉体は膨張し、もはや“人”の形を捨てていた。
「我は進化せし最終人類。純血なる魔王——ヴァルドロ・アーク・セレスティア!!」
その魔気に、ラ・ミューズもリュミエールも、ロベールも思わず一歩後ずさった。
だが、その前に立ちはだかったのは
「みんなは下がって。ここは私がやるわ!」
勇者アレス・スカーレットだった。
ボロボロのマントを翻し、剣を構えるアレスの瞳には、もう涙はなかった。
「あなたみたいなのが、“正義”を語るなんて……そんなの、絶対に間違ってる!」
ヴァルドロは鼻で笑う。「なにもできない弱い勇者が、何を正義ヅラしている……!」
アレスは叫ぶ。「確かに私は泣き虫だった! 弱かった! 怖がりで、逃げてばかりだった!」
「でも、ロベールとリュミエール、ミューズ、みんなと出会って、教えてもらったの!」
「心を縫い合わせれば、前に進めるって……!」
「だから今度は、私があなたを断つ! 私は……“誰かを守れる勇者”になる!」
剣が輝く。
それは涙ではなく、“信じる仲間たち”の力を宿した光だった。
背後からロベールが支援魔法を唱える。
「わたくしの刺繍の力、侮らないでちょうだい♡」
紫の魔法布がアレスの足元に絡み、風のごとき加速を与える。
リュミエールもスライムの体を応用し、アレスの剣に粘性の魔力を纏わせる。
「これは“希望の粘度”よ! ねばつく友情、思い知りなさい!」
ミューズは震えながらも一歩踏み出し、かすかな声で囁いた。
「アレス……お願い、ヴァルドロを止めて……」
アレスは頷く。
「行くわよ!コーチや師匠たち、みんな……見てて!」
彼女は走った。
叫びとともに、狂気の魔王へと剣を振りかざす。