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【5万4千PVアクセス突破 全話 完結】『最初に倒されるはずのボス、ホブゴブリンの俺。転生して本気出す。〜3年後に来る勇者を倒すための準備録〜』  作者: 虫松
第二部 『かませボスのホブゴブリンと泣き虫勇者、そして伝説へ』

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第6話 ロベールの涙、アレスの決意

死者の村ヴァスティリエは、かつてロベールが刺繍と愛で育った村だった。

だが今は、炎に包まれ、黒煙と焼け焦げた布の臭いがただよう焦土。


その中心に、狂気をまとった男が立っていた。


「くはっ……くひひっ、あ"ぁ~~~~ッ!」

「おれは正義の使者“ドランカー様”だぁ! 魔物はみんなブッ殺して焼くって、神が言ってたんだよぉぉッ!!」


人間側討魔王残党伐隊の指揮官・ヘビードランカー。

戦場で名を上げたが、戦いの中で精神が崩壊。

今や、麻薬とアルコールと“自分だけの神”の声に支配され、

正義という名の狂気をふりまく暴君となっていた。


挿絵(By みてみん)


「ゾンビがしゃべってらァ……ぐへへッ……ははっはははァ!

臭い死体は燃やさないといけないなぁ、灰にして空気に混ぜろォ……吸い込めば正義になんだよォ……!」


ヘビードランカーは自分の腕に包帯を巻きながら、

その下から露出した無数の注射痕を指でなぞり、にやにや笑った。


「強くなるためになァ、飲むんだよォ。いろんなもんをなァ……ゾンビの骨粉とかよォ!」


「ゾンビだろォ!?死んでんだろォ!?生き返んなよォッ!?ドレス着てんじゃねえええッ!!!」


彼の大剣が、ゾンビの刺繍の残布を無造作に切り裂いた。


「や、やめなさいぃぃぃぃぃぃッ!!!」


ロベールが絶叫する。


「そのレースはっ……この村の子が縫ったのよぉぉぉぉっ!!」

 

しかし、ヘビードランカーは耳を貸さない。

口元を泡だらけにしてわめき、意味不明な歌を口ずさみながら酒瓶を振り回す。

 

「勇者様だろぉ?何とかしてみろやああああっっ!」


アレスの目が、静かに怒りで燃えた。 


「やめてよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

ロベールが叫ぶ。声が涙で震えている。


「あたしの生まれ故郷を!家を!ドレスを!家族を返してぇぇぇぇぇッ!!」


アレスは剣を強く握った。


その瞳の奥には怒り。

今まで泣いてばかりいた少女の中に、確かな“炎”が灯っていた。


「あなたなんかに、死者を、笑わせるもんか!!」


そして剣を、振るった。

 

ヘビードランカーは笑っていた。

「お、怖いねぇ~小娘ちゃん。おんなの勇者が怒ったぞぉ~」


剣が交わる。だがドッラグは動きが速い。薬で肉体が限界を超えている。


だがアレスは


「ロベールさんのために!」

「仲間のために!」

「わたしが、“戦う勇者”になるんだぁぁぁッ!!」


渾身の一閃!


剣が火花を散らし、ヘビードランカーの盾を吹き飛ばした!


「がっ……!」


狂笑が止まった。


「おま……勇者のくせに、やりやが……ぐ、う……うぁぁ……ッ!」


よろめきながら倒れこみ、ヘビードランカーはそのまま昏倒した。


静寂が、広がった。


戦いの後、ロベールは焼け焦げた村の中央に、ひとり立ち尽くしていた。

かつて刺繍教室だった場所。

花柄のカーテンも、シルクの練習布も、もう残ってはいない。


「……わたし、また刺繍……できるかしら……?」


そのつぶやきは、風に消えそうなほど小さかった。


そのとき。背後からそっと差し出されたものがある。


小さな、糸と布。

アレスだった。


泥だらけの手で、ボロボロのポーチから取り出したそれを、そっと手渡した。


「ロベールさん。私、裁縫苦手だけど……」

「でも、また……いっしょに作りましょう」


ロベールの目に、もう一度、涙が浮かんだ。


「……あたし、泣いちゃだめね。お化粧が落ちちゃうじゃない……」


ロベールは、言葉もなく、ただ布を見つめた。

そして、ぐしゃりと胸に抱きしめて、小さく笑った。


「ふふ……あたし、勇者に泣かされたのは……これで二回目よぉほほほほ」


そして遠く、木陰からそれを見ていた護がボソリ。


「……ふん、やるじゃねぇか、“勇者”」


確実に成長する弟子を見てコーチのホブゴブリンの護は涙ぐんだ。


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