第4話 女勇者、捕まる!?
「な、なんで私がぁぁぁっ!?!?」
広い石造りの牢屋。暗く、ジメジメとした空気に包まれて、泣き虫勇者アレスは今日も泣いていた。
理由は明確だった。
「魔王軍のゾンビと仲良く旅していた」
として、王都に入って早々、反逆の嫌疑で勇者なのに捕まったのである。
「だ、だって……あの人すっごく刺繍が上手くて優しくて、紅茶もいい香りで……」
「それ、逆効果の証言だぞ……バカなのか」
牢の外では、兵士たちが噂している。
「やっぱりな、あの女勇者、どこか抜けてると思ってたんだ」
「まさか魔王軍とつるんでたとはな……」
「いや、あいつじゃ魔王軍に利用されるだけだろ。ちょろそうだし」
アレスは牢の中で、体育座りでうずくまり、ぶるぶる震えていた。
「……やっぱり私なんかが勇者なんて……もう、帰りたい……」
そのとき。
牢の天井の隙間から、頭にバケツをかぶった怪しい人物が降りてきた。
「……よぉ、泣いてる場合か、勇者」
「え? バケツ?」
「いや、変装だ」
「え? 先生!? って、先生じゃない!師匠じゃなくて、コーチ!? 」
「やかましい!!身バレするだろが!!」
バケツの男のホブゴブリンの護である。
王都にてアレスが捕まったと聞きつけ、バケツとモップで掃除夫に変装して忍び込んで来たのだった。
「なにやってんだ、お前……泣いてる暇があったら、抗議しろ。戦え。訴えろ」
「で、でもぉ……もう人間にすら信用されないなんて……私、もう……」
護はアレスの頭に、ポン、と手を置いた。
「いいか。“味方”ってのは、旗印じゃなくて、行動で決まるもんだ。人間だろうが、ゾンビだろうが、俺みたいなホブゴブリンだろうが……信じてくれる奴が1人でもいれば、それが“味方”だ」
アレスは涙目のまま、こくんと頷いた。
「じゃあ、脱出すっか」
「えっ!? 今から!?」
護は腰から取り出す、なぜかビニール傘。
「看守の視線を反射させる最強の装備だ。バケツと合わせて無敵」
「どこが!?」
看守の目を盗み、バケツとモップで“新人清掃員コンビ”を演じながらの脱出劇は、
兵士たちの「床ぴかぴかやな……」の声に守られ、意外と順調に進行。
だが、出口で待ち受けていたのは
「おっそ~い♡ 迎えに行こうと思ったけど、気をつかって待ってたのよぉ♡」
ゾンビ伯爵ロベールであった。
なんとロベールは、王都に刺繍コンテストの招待枠で入国していたのだ。
「ど、どうやって入ったんですか!?」
「刺繍ドレスの展示会よぉ♡“死してなお咲く薔薇の女王”でグランプリ取ったの♡」
「なにそれ強すぎる!!」
そのままロベールの“非常用お嬢様馬車”に乗り、3人はまさかの王都正門突破。
護は言った。
「お前、いいこと言ったろ。味方ってのは行動で決まるってな。ロベールだって、こう見えて、ずっと“味方”でいてくれてたんだぜ?」
アレスは、泣きそうな顔で笑った。
「……ありがとう。コーチ……。ロベールさんも……。わたし、もっと強くなりたい」
そして空を見上げて、こうつぶやいた。
「“勇者”って、きっと……立場じゃなくて、覚悟なんですね」
護は照れ隠しに、バケツを深くかぶりなおした。
「お前、たまには良いこと言うじゃねぇか」
非常用お嬢様馬車は夕日に向かって爆走した。
「明日はきっとハッピーよぉほほほ♡」
ローベルがきっとウィンクしたと思う骸骨の方で。まぶたないですけど。