第3話 魔王軍の乙女、ゾンビ伯爵ロベール登場!
ミルドの町から北へ。霧が立ちこめる薄暗い森の奥、
ぽつりと佇む、薔薇の蔦に覆われた不気味な洋館。
「う、うわぁ……いかにも“死霊系の魔物の巣窟”って建物ですねぇ……」
勇者アレス・スカーレットが震える声で言う。
護はフードを深く被りながらうなずいた。
「間違いない。あの中にいるのは……魔王軍四天王の一角ゾンビ伯爵ロベール」
「ひぃっ!? ゾ、ゾンビですか!? わたし、ホラー系無理なんですけどぉぉぉ!」
「安心しろ。俺も無理だ。見た目以外な」
ギイイイイイ――
突然、洋館屋敷の重い鉄扉が勝手に開く。
そして、スカートのようにヒラリと揺れるフリルつきの黒い貴族服、
片目に薔薇の眼帯、上品な巻き髪ウィッグ……しかし顔の半分はガイコツという、
この世に一人しかいない風貌の人物が現れた。
「あら♡お客様かしらぁ?ようこそいらしてくれたわね、かわい子ちゃんたち♡」
「…………え?」
勇者アレス、思考停止。
護も思わず固まる。
「やぁねぇ、そんなにジロジロ見ないでちょうだいな♡
あたしの名はゾンビ伯爵ロベール様♡
見ての通り、ちょっぴりガイコツだけど中身は乙女100%よぉ~♡」
ガイコツの頬(?)を指でちょんっと突きながら、
ロベールは両腕を広げてクルンと回った。
「さあさ、遠慮せず入ってちょうだいな♡ちょうど午後のお紅茶の時間なの。今日はラベンダーティーとケーキ、それとね、新作の刺繍ハンカチもあるのよぉ♡」
「えっ……ゾ、ゾンビの四天王って、乙女趣味のオカマだったんですか……!?」
「誰がゾンビよ!失礼しちゃうわねぇ♡(ゾンビだけど)」
護は呆れたようにため息をつきつつも、
テーブルの上の刺繍ハンカチを見て目を見開いた。
「……こ、この細かさ……まるで芸術品じゃねぇか……」
「ふふふ♡ うれしいわぁ~!この“秋の風としらたまウサギ”は、なんと3ヶ月かかった力作よ♡」
「す、すごい……!」
「思ったよりめちゃくちゃ乙女……!!」
そして、そのままお茶とおしゃべり、刺繍談義へと突入。
アレスは「ミシン触ったことないですぅ……」と涙目になりながらも、
なぜかロベールにハンカチの角に「A・S」と刺繍され、
最終的に仲良くなってしまった。
そして帰り際。
「ロベールさん……」
「なぁにん? 勇者ちゃん♡」
「その……一緒に来てもらえませんか……?
あなた、確かに魔王軍の四天王かもしれないけど……でも、優しくて、素敵で、頼りになって……」
「キャアァァ♡告白された気分ぅぅ♡」
ロベールが全身ガイコツでピンク色に染まった(ような気がした)。
「オッケーよ♡ 乙女なゾンビ、ここに参上♡ 勇者パーティ入り、決定〜〜♡」
「……マジかよ」
ゾンビでオカマだぜ。と護は思った。
こうして
泣き虫勇者アレスの最初の仲間は、魔王軍四天王にして乙女系半ガイコツオカマ貴族という、なんとも異色なスタートを切ることになったのであった。