第2話 俺は転生者でこのゲームをクリア済み
焼きトウモロコシの香ばしい匂いが立ちこめる、ミルドの裏路地の屋台。
ホブゴブリンの護は、串を返しながら、震える女勇者を横目で見ていた。
「……なあ、お前、今さらだけど勇者だよな?」
「そ、そうですけどぉぉ……!む、無理ですってぇ……!」
案の定、アレス・スカーレットはうずくまり、全身で泣いていた。
昨日も泣いていた。今日も泣いている。たぶん明日も泣く。
護はふぅと長くため息をつくと、唐突に口を開いた。
「俺さ、このゲーム世界を一回クリアしてるんだよ。」
「……へ? く、クリア……って?」
「つまり俺は、元は人間で死んだ後に転生してホブゴブリンになったわけ。前の人生、俺がクリア後にリセットされて、今こうして、またホブゴブリンに転生してるってわけ、だから今は2度目のホブゴブリン魔人生だ。」
アレスはぽかんと口を開け、焼けたトウモロコシを半分口に入れかけて止まった。
「えええ!? つ、つまり、裏ボス級!?」
「いや、最初のかませボスな。お前、前に泣きながら逃げてっただろ? あの時、2回目ホブゴブリンの俺」
「ひぃぃぃぃいぃい!!怖すぎる。」
「泣くな。話はまだ終わってねぇ」
護は串を皿に置いて、まっすぐアレスに言った。
「俺は、このゲームの世界を正常にするため来た。今度こそ、世界を救える“本当の勇者”を育てるためにな」
「えっ……私……ですか……?でも、私……弱くて……ごめんなさ……」
「泣くなぁッ!!」
「ご、ごめんなさいぃぃぃい!!」
「……いいか、今日からお前は、俺の教え子だ。コーチと呼べ!」
アレスは目をパチクリとさせる。
「えっ……コーチですか……?」
「そう。今日から俺がコーチ。ただしなパワハラとセクハラは絶対にしない禁止だ!ここだけは絶対守る」
「よ、よかった……変なコーチじゃなくて……(魔物で、怖いけど)」
護は地面に木の棒を突き立てて、でかでかと書き始めた。
『勇者再育成プログラム ホブゴブリン式』
◆ 真の勇者再育成プログラム ◆
〜泣き虫・へっぽこ勇者を立派な戦士に鍛え上げる7つの特訓〜
①【自己肯定感の育成】
毎日「できたこと」を1つ書く。まず自分を好きになるところから。
②【基礎体力の強化】
毎朝の森ランニング2周。泣いても歩け、休んだら腹筋倍。
③【生活力の向上】
デフリー直伝チャーハンで料理力UP。卵はご飯と先に混ぜろ!
④【恐怖の克服訓練】
「無理」「怖い」と言ったらその場で正座+腹式呼吸10分。
⑤【週1ミッション】
簡単な依頼をこなし「できた!」の積み重ね。まずは子犬の散歩から。
⑥【泣かないチャレンジ】
泣かなかった日はご褒美アメ玉(ミント・イチゴ・謎味)
⑦【コミュニケーション能力向上】
1日3回以上知らない人へ話しかける。お天気の話題・気温などがお勧め。
「7つもある。……な、長い……!」
「お前が泣いて逃げた分、課題が溜まってんだよ。全部クリアしたら、魔王討伐ルートが開く」
「えええええ!? そ、それほんとに“勇者”なのぉ……?」
「勇者ってのはな、“戦う力”じゃねえ。“立ち上がる勇気”だ。だから、泣いてもいい。ただし、歩け!剣を抜け!仲間を信じろ!」
アレスは涙目のまま、ぎゅっとトウモロコシを握りしめた。
「……でも……私……やってみたいかも……」
護はニヤリと笑った。
「それでいい。まずは一歩踏み出せ、勇者アレス。今日から地獄だぞ?」
「ひええええええぇぇぇぇ!!」
こうして、“泣き虫女勇者アレス・スカーレット”の涙と汗と、ホブゴブリン護コーチの地獄の真の勇者育成プログラムが幕を開けたのであった。護の暇つぶしに付き合うために( ^ω^)・・・