エピローグ 女勇者の自立と旅立ち
朝日が昇り、ヒメリア村は今日も静かで穏やかな朝を迎えていた。
だが、村の中央広場だけはいつもと違うざわめきに包まれていた。
「……それじゃあ、行ってきますっ!」
晴れやかな笑顔で手を振るのは、赤髪の女勇者アレス・スカーレット。
その姿は、もうかつての泣き虫ではなかった。
手入れの行き届いた剣、手縫いのマント、そしておにぎり入りのポーチ。
4人の師匠たちティリス、エミリー、デフリー、コニちゃんは、誇らしげに彼女を見送っていた。
「ちゃんと野菜も食べるんだぞ!」
「剣は使ったらすぐ磨けよ!」
「無理したらすぐ帰ってくるのよ!」
「おにぎり、途中でくさったら投げ捨ててねー!」
口々に飛び交う激励と、ちょっと雑な心配の声。
アレスはそれを全部受け止めて、笑顔で頷く。
彼女は、魔王討伐の旅へと向かうのだ。
やがて、村の出口へと歩みを進めたアレス。
そしてその先の森の中の木陰に、そっと見送る影がひとつ。
「……ふっ。まったく、立派になったもんだな」
ひときわ大きな体を、木の陰に隠すようにしながらブツブツ言っているそれは、ホブゴブリンの護だった。玉座の間では“かませ”を全力で演じた彼も、今はただの木陰のモブと化している。
「ねぇ、なんで木の影からコソコソ見てんの?」
コニちゃんが後ろからそっと問いかけた。
「おま……なんでここに!? いやこれはだな……その、アニメの演出でよくあるだろ? 最後に主人公が旅立つとき、謎の師匠っぽいやつが木の影から見送ってるってやつ!」
「えー、それって“実は強い裏の味方ポジ”でしょ? かませボスなのに?」
「むぐぅっ……!」
その横で、エミリーとデフリーもくすくすと笑っていた。
「なんか……影から出るタイミング完全に失ったわね」
「出ても変な空気になるから、そのままでいいと思うぞ?」
「……うるせぇ!!」
護が大声を上げた時には、アレスの姿はもう森の奥へと消えていた。
「……ふっ。いってこい、勇者」
ホブゴブリンの護は、誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。
その顔には、ほんの少しだけ師匠のような、兄のような、父親のような、変な誇らしさが浮かんでいた。
こうして、泣き虫だった女勇者アレス・スカーレットは数多の師匠の愛を背に、魔王討伐の旅へと踏み出したのだった。
いつかまた会うその日まで。
泣かない、逃げない、勇気を忘れない。
そして護は、今日も木陰で見ている。
なぜならそう、「あのアニメ 巨人の☆(ホシ)のノリ」だからである。
続きが書けそうなので二部も書きました。宜しくお願い致します。




