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第6話 弟子と師匠、剣と涙とおにぎり

朝の村は霧に包まれ、石畳の広場に冷たい空気が流れていた。

その中心に、小柄な影が一人、短剣を手に構えている。


「ふんっ……! はっ……!」


声を出しながらも、足がぐらつく。

勇者アレス・スカーレット。まだ自信も力もない“仮の勇者”だ。


「そこの踏み込みが甘い。リズミカルに身体が風に乗れてない」


そう言って近づくのは、エルフ族の剣士ティリス。

風を斬るような美しい所作で、彼女はアレスの剣の握りを直した。


「あなたは剣に恐れを乗せすぎてる。“斬る”んじゃなく、“流す”のよ。」


「師匠,,,,む、むずかしいですぅ……」


うなだれるアレス。


そこへ、丸っこい体を揺らしながら、コニちゃんが登場した。

まるで小太りの妖精のようなトロール族の少女。エプロン姿で手には包みを抱えている。


「ティリス〜、師匠やりすぎ〜! ここで、おにぎりターイム!」


「え、まだ始まって10分ですが……?」


「心が折れる前に、おにぎりで修復するの〜!」


ずしりとした三角形のおにぎりがアレスの手に渡る。

一口かじれば、ふわっと優しい鮭の味。思わず、涙が浮かぶ。


「……美味しい……なんか……頑張れそう……」


「そうなの〜! コニちゃん、おにぎりの妖精だからね〜!」


「えっ、やっぱり……妖精だったんですね……!」


その様子を、広場の端から見つめる二つの影があった。


「なるほど、思ったより根性あるじゃねぇか」


そう言って現れたのは、分厚い筋肉と皮鎧をまとったオーク族の戦士・デフリー。


「よォ。オレはデフリー、魔王軍・外縁戦闘部隊のオーク隊長。

力こそパワー、だけど指導は繊細にやるぜ。よろしくな、勇者ちゃん」


その後ろから、冷たい風と共に現れるのはリザードマン族のエミリー。

冷静で知的な雰囲気をまとう魔術師だ。


「術の呼吸、体の運用、それから精神の保ち方。全て、鍛え直す価値はある。

私も、あなたの“師”になるわ。魔王軍式、だけどね」


「えっ!? ま、魔王軍!? み、みんな……魔物……」


アレスは目を丸くする。


「うんっ! みーんな現役の魔王軍なの〜!」


コニちゃんがニコニコしながら言い放つ。


ティリスが言葉を継ぐ。


「アレス。あなたが最初に出会って命乞いして逃げ出した“あのホブゴブリン”

あれはこの世界の勇者となる“最初の入口”であり、“最初の関門”でもあるわ」


「最初の入口……関門……?」


エミリーが静かに続ける。


「今のあなたじゃ、また逃げ出すだけ。でも――」


デフリーが拳を握りしめる。


「今度は違う。オレたちが師匠だ。ひとりじゃねぇ」


ティリスが、アレスの肩に手を置いた。


「だから、私たちはここに集まった。あなたを鍛え、育て、導くために」


「泣き虫勇者が、“本物”になるようにね!」


アレスは胸の奥が熱くなるのを感じた。

自分を馬鹿にするでもなく、突き放すでもなく、

彼らは“師匠”として、今ここに立っている。


「わたし……やります。強くなってみせます!」


コニちゃんが叫んだ。

「よーし! みんなで力を合わせて、最初の洞窟のホブゴブリンの護を倒すの〜!」


「「おおーっ!」」


仲間たちの声が、村の空に響き渡った。

泣き虫だった少女は、今、四人の師匠+護と共に

世界を変える“はじめの一歩”を踏み出した。


ホブゴブリンの護はその様子をそっと木の物陰から見ていた。


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