第2話 勇者育成 魔族会議
「このままじゃ、世界が詰む。どうにかしなてくては」
ホブゴブリンの護は、洞窟の最奥にある玉座に肘をつきながらそう呟いた。
泣き虫勇者アレス・スカーレット。今のままでは、一番弱い魔物のスライムにも負けかねない。
だがこのままでは魔王は倒せないし、物語は永遠に終わらない。
「となれば……やるしかねぇだろ、勇者育成計画。」
俺はかつての仲間たちに呼びかけるべく、各地に伝令を飛ばした。
オーク族、リザードマン族、トロール族、エルフ族の若き代表者たちに、
そして数日後。
とある山奥の廃城跡にて、4人の仲間たちが集まった。
古びた円卓の周囲に、懐かしい顔が並ぶ。
「ホブ様、お久しぶりっすー!」
オーク族のデフリーが両手をぶんぶん振りながら、のっしのっしと入ってくる。
筋骨隆々、アホだがいいやつ。記憶はないようだが、笑顔は変わっていない。
「会議ってなんなの? 私、暇じゃないんだけど」
リザードマンのエミリーは腕を組み、鋭い目で睨んできた。
知性派で冷静。合理主義だが、協力してくれた過去がある(たぶん今回はまだ冷たい)。
「おいしいもの……ある?」
トロール族のコニちゃんは巨大な背中でドアをくぐり抜け、パンを頬張っている。
癒し担当で、お母さんのような存在だった。今はただの食いしん坊。
そして
「……あなた、どこかで会ったような気がする。前世の記憶かしら」
最後にやってきたのは、エルフ族のダークエルフのティリス。長く艶やかな金髪、冷たい眼差し。そして、他の誰とも違う“視線”。
俺と目が合ったその瞬間ティリスの瞳が、かすかに揺れた。
「ティリス……もしかして、思い出したか?」
「……いいえ。でも……なぜか、あなたの声を聞いていると——」
彼女は目を伏せ、ふっと息をついた。
「昔、誰かに……守られたような気がするの」
その言葉に、俺の胸の奥がジンと熱くなった。覚えていないはずなのに、それでも、何かが残っている。
それだけで、もう一度集めた意味があった気がした。
「さて、今日集まってもらったのはだな……」
俺は本題に入る。
「新たな女の勇者が現れた。だが、めちゃくちゃ弱い。泣き虫で臆病で、正直このままだとスライムに負けるレベルだ」
「……それって、勇者って呼べるのか?」
「雑魚じゃん……」「どうしてそんなのが選ばれたのかしらね」
「かわいいの?」
全員好き放題言ってくれる。
「ま、とにかく。今回はその女の勇者を俺たちで育てる。泣き虫を、一人前の勇者に変える。世界を救わせる。それが今回の目的だ」
「はあああああ!?」「なんで俺らが!?」「面倒すぎるぅ……!」
案の定、反発の声があがる。だがティリスだけは、静かに俺を見つめていた。
「……あなたの言う“世界を救う”って言葉、なぜか信じられるのよ。不思議ね」
その一言で、空気が少しだけ変わった。
「ふん……ティリスがそう言うなら、まあ手伝ってやらんこともないっすよ」
「私は別に、反対ってわけじゃない。ただ、論理的な訓練が必要」
「がんばれ女勇者!わたしはおやつ作る!」
これが俺の仲間だ。
記憶はなくても、魂が覚えてる。俺たちは、また同じ目標に向かって進める。
そのことが、何よりも嬉しかった。
「決まりだな。泣き虫勇者アレス・スカーレットを育て上げて世界最強勇者にするぞ!」
かくして、“魔族による勇者育成会議”は幕を開けた。
次なるステップは、”勇者アレスの特訓大作戦“だ。
泣き虫のままでは終わらせない。
この俺たちが、彼女を本物の勇者にしてみせる。