エピローグ ゲーム世界を書き換える【最後の選択】
静寂の中、コア中枢領域《アーク・ロア=クレスト》の最奥。
神の座があった場所に、ひとりの男が立っていた。
ホブゴブリンの転生者、護。
彼の前には、荘厳かつ冷たい金属の装置。
それは「ゲーム創造者専用操作盤」と呼ばれる、“世界を書き換える権限”をもつ唯一の端末。
その中心に点滅するコマンドがあった。
【REBOOT_PROGRAM.EXE】
実行すると現在のゲーム世界を初期設定に再構築します。
護は、しばし無言のまま、それを見つめていた。
目を閉じれば、思い出す。
旅の中で交わした言葉、戦った日々、笑った顔、泣いた声、そして、殺されていった仲間たち。
勇者アレスこと南城大我が壊したこの世界を、元に戻すためにここまで来た。
魔王と仲間と交わした約束を守るために。
そして、世界のすべてを“もう一度、やり直す”ために。
「……みんな、ありがとう。俺、【REBOOT_PROGRAM.EXE】の実行をするよ。」
護は、迷わず指を伸ばした。
カチリ――
【REBOOT_PROGRAM.EXE】──実行
その瞬間、神の塔全体が低い音を鳴らしながら振動し始めた。
周囲の壁はブロック状に砕け、崩れていく。
天井も、床も、数式と光の粒子になって溶けていく。
《アーク・ロア=クレスト》が消えていく。
消滅の中心に立つ護の目の前の、仲間たちの姿が淡く浮かび上がった。
最後の、幻のような別れの時間。
デフリーが言った。
「君と旅ができて、本当によかった。楽しかったよ。」
エミリーは微笑んだ。
「世界がやり直せるなら……次は、私は、もっと強くなるわ」
ティリスは静かに目を伏せていたが、やがて小さくうなずいた。
「記憶は消えても……きっと、心のどこかにあなたとの思いでが残ってると信じてる」
そしてコニちゃんは、泣きながらもいつものように叫んだ。
「ばいばーい!! でもまた絶対、一緒に遊んでくれるんだからねーっ!!」
護は、4人の仲間たちと拳をぎゅっと握った。
目を閉じ、涙をこらえる。
「……うん。ありがとう。みんな、大好きだ」
そして世界は、白い光に包まれ、
《伝説のブレイブ レガリア》
は初期の状態へとリセットされた。
鳥のさえずり、風の音。
広がる緑、静かな空気。
そこは、どこにでもある小さなモンスターの洞窟の入口だった。
護は、岩陰で目を覚ました。
そこに強力な剣もない。レベルもスキルも、もうない。
ただの、ホブゴブリンの一匹に戻っていた。
だが
「……全部、ちゃんと覚えてる」
周囲には彼を“魔物の一員”として扱うオークやリザードマン、トロール
かつての仲間だった者たちが、ただのモンスターNPCとして存在している。
誰も“冒険”を覚えていない。
誰も“戦い”を知らない。
ただ、護だけが
“すべて”を覚えていた。
仲間と旅した日々、
ティリスの涙、
エミリーの長い舌
デフリーの笑顔、
コニちゃんの爆笑、
そして、あの選択。
「……全部、夢みたいだけど、夢じゃない。確かに魔族の仲間達との冒険はあった」
初期のホブゴブリンへと戻った護は、空を見上げた。
仲間たちと過ごした日々の記憶が、確かに残っている。
彼らはもう、ここにはいない。
だけど、あの笑顔も、涙も、最後の言葉も。
「……会えるかな。もう一度、初めて会うけど、みんなに」
そう言って、護は立ち上がった。ホブゴブリンの森の洞窟から出てくる。
歩き出す足取りは、少しだけ誇らしげだった。
それは、かつて仲間とともに歩いた冒険の一歩のように。
『最初に倒されるはずのボス、ホブゴブリンの俺。転生して本気出す。〜3年後に来る勇者を倒すための準備録〜』
THE END
ホブゴブリンの転生者の護の選択
「また、君たちに会いに行くよ。」
『最初に倒されるはずのボス、ホブゴブリンの俺。転生して本気出す。〜3年後に来る勇者を倒すための準備録〜』を最後まで読んでいただき有難うございました。
次は何を書くか考え中です。




