第5話 森のミルクで進化しました。
砦での強行突破をあきらめて森からの迂回ルートを洗濯した護たち魔族パーティー
「なんだあれは……?」
森の奥深く、白く輝く謎の存在がいた。
ふわふわの金髪、たわわな乳房、ゆっさゆっさと揺れる魔物とは思えぬほど妖艶な存在。
その名も“カウーガール”。
「えっちすぎるだろ……」
だが相手は魔物。油断すればすぐに両乳で圧殺責めで窒息死だ。
俺たちは一丸となって戦った。
エイミーが槍で隙を突き、コニちゃんが後方支援、デフリーが肉壁となり俺が囮となる。
連携でどうにか撃破に成功した。
そして手に入れたのが「森のミルク」。
カウーガールの持つ、命のミルクと称される白き液体ほんのり甘く、ほんのり温かい。
回復効果が高く、魔力の増強にも効くという代物だ。
「よっしゃあ!料理の時間や!」
デフリーが笑顔でフライパンを振る。
「まずはバターや」
デフリーが森で拾った石臼を組み合わせて簡易の撹拌器をつくる。
カウーガールから搾ったばかりの“森のミルク”を木の桶に入れ、丸太の棒でリズムよくかき回す。
「モンスターミルクは脂肪分が高いから、こうして攪拌してるうちに分離してくるんや」
粘度が増し、ミルクからクリームの層が現れ、やがてそれが黄色い塊──バターへと変わる。
浮いたバターを丁寧に取り出し、苔で濾し、冷えた川の水で洗って純度を上げていく。
「できたで……これが“森バター”や。香りがちゃうやろ?」
香ばしく甘い香りが森に漂った。
「次は具材やな。森の幸、たっぷり使ったるで」
デフリーは大きな鉄鍋を出し、森で採れたキノコ(多分食える)、玉ねぎに似た草の根、スライムを固めたコンニャク状の具を用意する。
バターを落とすと、じゅわっと音を立てて溶けていく。
「この音や、この香りや! シチューは序盤が命やで!」
バターが溶けたタイミングで玉ねぎ風の野草を入れて、甘みを引き出すまでじっくり炒める。
透明になったところで、スライムコンニャク、刻んだキノコ、獣肉の切れ端を投入。
「焦がしたら終わりや。愛情込めるんや。料理は愛情や」
ゆっくり炒めて旨味を引き出した後、森のミルクをたっぷり注ぐ。
白濁したスープに、風味豊かな具が泳ぐ。
「ここで味の決め手や。乾燥させたハーブと……これ」
デフリーは懐から大事そうに“岩塩のかけら”を取り出した。
これは魔王領の塩湖で取れる貴重な調味料。味に深みが加わる。
「くつくつ……くつくつ……」
煮立った鍋の中から、やさしい甘さとコクの香りが広がっていく。
まるで食べる前から身体が癒されるようだ。
「できたで。森のミルクシチュー。おかわりあるで」
手渡された木の器からは、立ち上る湯気と幸福感が。
「う、うまっ……!」
「森のミルクやぁ……最高やぁ……!」
口に含んだ瞬間、全身がとろける。
濃厚な森バターのコク、ハーブの香り、芳醇なミルクの香り
それは、冒険者としての疲労も、魔族としての苦しみも忘れさせてくれる味だった。
「……私はいいわ。甘ったるいミルクなんて、興味ないの」
森のミルクシチューを囲んで歓喜する仲間たちの横で、エミリーはそっけなく立ち上がった。
赤い瞳が鋭く森の奥を見据える。
「やっぱり、私にはこっちのほうが合ってるのよね……」
ごそっ……。
倒木の裏を剣の柄でつつくと、黒光りする大ぶりの甲虫が何匹か蠢いていた。
「いたわ。ぷりぷりのやつ」
エミリーは素早く虫をつまみ上げると、腰の革袋から塩をひとつまみ。
それを虫にふりかけ、何の躊躇もなく口に放り込む。
「……カリッ、じゅわっ……うん。いいタンパク質」
カリカリとした甲殻を噛み砕く音と共に、虫のエキスが舌に広がる。
「やっぱり私は、こっちの方が落ち着くわね」
淡々とした顔。だがその目はどこか満足げだった。
デフリーが思わず声をかける。
「お、お嬢……シチュー、ほんまにいらんのか? 愛情込めてんで?」
「ありがと。でも私は、虫で十分。……あなたたち、胃もたれに気をつけて」
そう言い残して、エミリーは木陰に戻り、再び虫を探し始めた。
コニちゃんがこっそり耳打ちする。
「エミリーさん……たまにホントにトカゲっぽいよね……」
「ええ、だがそれがいい」
と、俺は思わず呟いていた。
「この森のミルクシチューは身体の芯からあったまるなぁ……!最高やぁ……!」
みんなが無言で頷き、笑顔になった。
その瞬間だった。
俺たちの身体の中から、輝く光がほとばしる。
「こ、これは……!?」
◆俺・護:ホブゴブリン → ゴブリン隊長へ進化
◆デフリー:オーク → オークソルジャーへ進化
◆エイミー:リザードマン → リザードシャーマンへ進化
◆コニちゃん:トロール → ボストロールへ進化
魔力が高まり、肉体が一段階上の存在へと昇華していく感覚
これまでの戦い、努力、そして森のミルクの力で、ついに実を結んだのだ。
気づけば、俺たちは森の端に立っていた。
その先に広がるのは─
「平原……?」
見渡す限りの大草原。だが、どこかただならぬ空気が漂う。
「次は……俺たちの支配がまったく及ばない、新しい土地になるな」
「あるいは、もっと恐ろしい魔物たちの縄張りかもね」とエイミーが肩をすくめる。
「でも……やるしかねぇ!」
「そうや、次はワイらが支配する番やで!」とデフリーがフライパンを掲げた。
俺たちは一歩、草原に足を踏み入れた
新たな冒険と、さらなる進化のために。
第二章 完結