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第3話 「伝説のブレイブ・レガリアの開発者 今田敏夫の想い」

塔の中枢《アーク・ロア=クレスト》に入った俺たちは、エスカレーターのような光の軌道に乗り、

塔の内層へと導かれていた。


左右の虚空に浮かぶ巨大モニターが、静かに映像を映し出す。


それは、一人の男の記憶だった。


少年時代の、今田敏夫。

初めてゲームに触れた日。

画面の中で、勇者が仲間を得て魔王を倒す姿に、震えるほどの希望を抱いた。


現実ではいじめられ、家庭では親の怒号と無関心。

でも、ゲームの中のパーティは、自分を「仲間」として受け入れてくれた。


「……俺は、ここにいていいんだって……初めて思えたんだ」


少年は涙を流しながら、8bitの冒険を走り抜けた。

そして、決意した。


「俺も、こんな世界を創る側に立ちたい」


やがて彼は努力を重ね、ゲーム開発の才能を開花させ、若くして数々の賞を受賞。

大手開発会社ミラージュコードの花形チームへと配属される。


ここまでは、栄光の歴史だった。


だが、モニターに映るその後は現実だった。


会議室の中の屈辱。

「今田さん、暗すぎんだよ。RPGにそんな哲学いらねえの」


「勇者が魔王倒す。それでプレイヤーも気持ちよくなれる。それでいいじゃん」


「てか売れるし。そもそもお前、ゲームクリエイターじゃなくてサラリーマンだろ?」


深夜2時を回った会議室。

笑い声と紙コップのコーヒーの匂い。

そこには、あの日の「夢」を持ち込む場所など、どこにもなかった。


今田は、無言で会議室を出る。

資料を抱えて。魂を抱えて。


「……こんなのは、ただの神の独裁だ」

「ユーザーには“選択肢”があるべきだ。世界を変える自由が……」


やがて彼は、自らの最高傑作を設計した。


それが

『伝説のブレイブ・レガリア』


表向きは、勇者が魔王を倒す王道RPG。


だが、ゲームの名に込められた意味は違った。

“Brave(勇気)”が、“Regalia(王権)”を打ち砕く。

勇気が、神を、運命を壊す、そんな祈り。


「俺はあえて、この“王道”を創った」

「だが最後に、世界を書き換える“バグ”を仕込んだ」

「いつか、誰かが……この構造を壊すことを信じて」


そして今田は、自らの肉体を捨てた。

魂をコードに変換し、全ての記憶と想いをこの塔に閉じ込め――創造神セフィロス=コードとなった。


そして、光のエスカレーターで俺たちはたどり着いた。

《アーク・ロア=クレスト》最上階へと《神命の玉座》。


天井は存在しない。

空間そのものがねじれ、無数の光の階層が空へと延びる。


その中心に、ひとつだけ浮かぶ椅子があった。


重厚な黄金と黒曜石で造られた玉座。

コードの雨が降りしきる中、それはまるで世界を支配する“記憶”の玉座。


そして、そこに座っていたのは、今田敏夫の魂そのもの。


仮面を外したその顔は、驚くほど若く、そして深く疲れていた。


「護。お前は……俺が待ち望んでいた、最後の変数だ」


静かに、今田が言った。


「王道を破壊してくれる勇気を、俺に見せてくれ」


俺はついに、転生者としての最後の決断を迫られた。



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