第2話 時空のはざま神の塔へ
その日は、静かすぎる朝だった。
ホブゴブリンの洞窟で望み願い会議から6日後。
かつて仲間たちと笑い、泣き、鍋を囲んだこの場所に、重く、冷たい空気が流れ込む。
洞窟の奥から、黒いローブの男が現れた。
「やあ。久しぶりだね、転生者と魔物さんたち」
声を発したのは、闇ギルドのギル。
彼はNPCでありながら、転生者を導く役割を持つ特別な存在だった。
その顔には笑み、だが瞳には一切の感情がなかった。
「……来たか、ギル」
護が立ち上がる。
「“神”がお待ちです。すべての終わりであり、始まりとなる場所へ」
ギルが指を鳴らすと、空間が裂け、銀色の時空の門がゆっくりと開いていく。
風が巻き起こり、異次元の気配が仲間たちの肌を刺す。
「いよいよか……ドキドキするわぁ」
コニちゃんが大きな腹を揺らしながら呟く。
「ここが……世界を書き換える場所……」
エミリーが槍を握る手に力を込める。
「魔王様……見ていてください。私、ちゃんと見届けます」
ティリスの目には、決意の光が宿っていた。
「記憶が消えるかもしれない。でも、それでも……最後まで、お前に付き合うぞ、護」
デフリーがそっと護の肩に手を置いた。
護はゆっくりうなずき、先頭に立って歩き出す。
「行こう。俺たちの、最後の答えを探しに」
時空の裂け目に、五つの影が吸い込まれていく
そして現れた、それは“神の塔”。
コア中枢領域《アーク・ロア=クレスト》
そこは、現実とも幻ともつかない、異質な空間だった。
◇ 構造全体:
全高:不明。
天空に突き刺さるように延びるが、視界の限界を超えており、
観測すればするほど“長さ”そのものが変動するような錯覚を覚える。
外部からは“永遠に続くDNAの二重螺旋”のように見えるが、
実際には重力すらねじれる多層世界が絡み合う立体構造。
材質:時空金属〈クロノオブシディアン〉と光素コード
表面は漆黒の金属で覆われており、近づく者の“記憶”を反射するような鏡面性を持つ。
柱や外壁には、光のコード列(青白く流れる未使用スクリプト)が脈動し、
心拍のように塔全体が「生きているかのような呼吸」を繰り返す。
浮遊する破片群
外周には、かつて削除されたエリアや未完成のデータ片(廃棄ワールドの欠片)が衛星のように周回している。それらの破片には、異なる時代・文明・思想が断片的に映し出され、塔を観察する者の過去と接続される。
塔は黒曜石と光のコードで編まれ、上空へと無限に螺旋を描いてそびえ立っていた。
見上げても、その頂は見えない。空間そのものがねじれ、回転し、構造の概念すら破壊されていた。
「なんなん……ここ、怖っ。目が回るぅ~お腹ゴロゴロ」
コニちゃんがぐるぐると目を回す。
「塔の壁……これ、全部スクリプト文字列?」
エミリーが浮遊するバグの断片に指を伸ばすと、そこには「failed_event_id_304」など、無数のログが刻まれていた。
塔の中心には《決定因子ログ(The Causality Archive)》があった。
それは世界の記憶そのものであり、巨大な浮遊モニターに「護たちの旅路」が映し出されていた。
「……これ……俺たちが……?」
護が目を見開く。
そこには、あのときの涙、怒り、裏切り、そして微笑みが、すべて記録されていた。
「忘れたくない……こんなにも、私たち……一緒だったのに」
ティリスがそっとモニターに手を添える。
「なぁ、護……俺たち、本当に……この記憶、全部消していいんか?」
デフリーの声が震える。
「みんな、考えよう。俺たちは何を願うべきか。何を残すべきか」
護の声が、塔の中心に響く。
そして次の回想は伝説のブレイブ レガリアの開発者 今田敏夫の想いの記憶だった。