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第1話 「望み、お願い会議」

静かな夜。

かつて大戦があった玉座の間は、今や焚き火の灯に照らされた一時の休息所となっていた。

ホブゴブリンの転生者・護は、焚き火を見つめながら、仲間たちと輪になって座っていた。


一週間後、創造神セフィロス=コードが待つ、コア中枢領域《アーク・ロア=クレスト》にて。

世界をどう書き換えるのか、最終の願いを告げなければならない。


その権利を持つのはただ一人 ホブゴブリンに転生した護のみ。


けれど、これは自分だけの世界ではない。

ともに生き、戦ってきた仲間たちの想いを背負わなければならなかった。


そして、今夜。

“お願い会議”が始まった。


「……魔王様も、まさか勇者アレスに倒されてるとはなぁ」

最初に言葉を発したのは、僧侶のデフリーだった。

お玉の形をした杖を抱えながら、肩を落としている。


「私たち魔物は、魔王様に“作られた存在”でしょう?

だったら、魔王様の望んだ秩序を取り戻すべきじゃないの?」

エミリーがまっすぐに言った。

戦いで傷だらけになった槍を見つめながら、その瞳には揺るぎがない。


「つまり……元の《伝説のブレイブ・レガリア》、勇者が魔王を倒す世界に戻すってことだね?」

ティリスが少し不安げに問いかける。

細身のダークエルフの手が、震えていた。


「でも、でも……それって、元に戻るってことは、私たち……初期状態に戻るとか?」

コニちゃんが怯えたように、指をくわえて聞いてきた。


護は焚き火を見つめたまま、重い口を開いた。


「……そうだ。元に戻すってことは、たぶん……“リセット”するってことだと思う」


「リセット……って、どういう意味?」


「最初はリザードマンだったエミリー、トロールだったコニちゃん、オークだったデフリー ダークエルフだったティリス……

みんな、“進化”して、今の姿と知性を手に入れた。

だけど元に戻すってことは、また……獣のような本能だけで生きる“ただの魔物”に戻る可能性がある」


焚き火の火が、パチンと弾けた。


「そして……記憶も、たぶん消える」


その言葉に、全員が静まり返った。


これまでの冒険。

笑いあった食卓、命を懸けた戦い、互いを信じて守り合った日々。

そして、勇者アレスに奪われた仲間たちの命。


「でも……お兄ちゃんや族長や、村の仲間たちが戻るなら……嬉しい。ううん、戻ってほしいよ……」

コニちゃんの声が震える。


「ワイも、あの時食べ損ねた温泉たまごの味をもう一度……いや、ちゃうわ」

……ワシら、魔王軍も、人間も、ぐちゃぐちゃにされたんや。戻せるもんなら、戻したい。でも……」

デフリーは拳を握った。


エミリーが静かに言う。


「私たちが失うのは、自分自身。記憶。心。……“今ここにいる私たち”そのもの」


みんな、沈黙した。


護は、仲間の顔を一人ずつ見つめた。

誰もが傷を抱えている。けれど、誰も「やめよう」とは言わなかった。


「俺の願いが、みんなを消すことになるかもしれない。だから、俺は……迷ってる。どうしたらいいか、本当に……」


焚き火の中の炎が、まるで答えるように揺れた。


この会議の先に、きっと“もう一つの戦い”がある。

それは敵との戦いじゃない

「このゲームの世界にとって何が正しいのか」を選ぶための、俺の最終決断。


そしてその答えを出すために、残された時間はあと6日。

物語は、再び深く沈み始めていた。



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