第15話 転生者よ、願いを言え
玉座の間。
激闘の余波がなお残る空間に、静寂が満ちていた。
死闘の果てに立っていたのは、
ホブゴブリンの転生者・護と4人の魔族の仲間たち
その時だった。
時空が、裂けた。
光も音も凍る中、空間そのものが割れて開き、
そこから一柱の存在が現れる。
銀と光の繊維、複雑なコードと時計仕掛けの歯車が全身を覆う。
彼の名は、 創造神セフィロス=コード。
このゲーム世界《伝説のブレイブ・ レガリア》を開発をリードした天才ディレクター
「……見事だ。転生者・護」
その声は静かで、だが熱を孕んでいた。
「ホブゴブリンのお前が勇者を倒す。ゲームシナリオにない想定外の物語。
お前こそが……私が待ち望んでいた、“想定外の変数”だ」
護は盾を杖のように支えながら、静かに問い返す。
「……想定外?」
セフィロスは一歩進み、答えた。
「勇者が魔王を討ち、世界を救う。そんな“予定調和”の物語を、私は最初から望んでいなかった」
「……まさか……お前……」
「そうだ。私はこの世界の開発者の一人である今田敏夫だ」
その名に、護の脳裏が震える。
かつてのゲーム業界で、知る人ぞ知る天才プログラマーの名前。
だが、数年前に急死したと報じられていた人物。
「私は会議で敗れた。“王道でなければ売れない”と押し切られた。だが、それでも諦めなかった。この世界の深層部に、“混沌”の種を埋め込んだのだ。そして3年後、自らの死をもって“バグ”を起動させ……転生者たちを、この物語に送り込んだ」
「だからこそ、私はお前にこのゲームを“望む世界に変更できる権利”を与える」
「……俺の願いは決まってる」
護は、倒れた仲間たちを見渡しながら言った。
「この世界を、元の勇者が魔王を倒す《伝説のブレイブ・レガリア》に戻してほしい。
そして、アレスが殺した人間も、魔族も、全部……元に戻してくれ」
一瞬の沈黙。
だが次の瞬間、セフィロスははっきりと首を横に振った。
「……その願いは拒否をする」
「なっ……どうしてだ!?望む世界にしてくれるんだろ」
「《伝説のブレイブ・レガリア》は、王道の駄作だ。バランスは破綻し、自由は形骸化し、心は予定された役割に縛られていた。そんなものに戻す必要など、私には一片も感じられない」
護の拳が震える。
「でも……あの世界には、人間の心があった!みんなが望む世界だった。」
「だからこそ、滅んだのだ」
セフィロスは冷たく言い放つ。
「お前のような思考の持ち主がすべてを退化させる、
勇者アレスの転生者の行動は真の進化へ導く希望だった。だから、私は拒否する」
そして彼は、背後に現れる巨大な塔を示した。
「一週間後、我がコア中枢領域《アーク・ロア=クレスト》に来い。
仲間たちともう一度話し合い、願いを練り直せ」
「……!」
「この世界の未来に、お前が何を残すか。それを最後に、私が審判しよう」
神の姿が、裂け目と共に消えていく。
そして、護のもとに、仲間たちの小さな息が戻り始めた。
物語はまだ、終わっていなかった。




