第4話 人間の砦
草茂みの奥に身を潜めながら、俺たちはじっと前方を見つめていた。
人間が作り上げた砦。
高い石壁が幾重にも積まれ、見張り台には槍と弓を持った兵士たち。
砦の周囲には畑と井戸が見え、人々が暮らす音が微かに聞こえてくる。
「……さて、どうする?」
俺が問いかけると、すかさず返ってきたのは強硬な意見だった。
「ここまで来て引き返すなんて冗談じゃない。肉と調味料と鍋があるのはあの中だろう?」
デフリーは目を爛々と輝かせていた。言うまでもなく、目当ては調理器具と食材である。
「私は人間の武器がどんなものか見てみたい」
エイミーは槍をくるりと回しながら、涼しい顔で言った。
「キモいし怖いけど……中に甘いものあるかもしれないし」
コニちゃんもまさかの突撃賛成派。
結局――
強硬派:デフリー、エイミー、コニちゃん
迂回派:俺だけ。
……いや、ちょっと待てお前ら。見た目どう見ても魔物だぞ?
俺は必死に説得した。
「まずいって、冷静に考えろ?人間の砦だぞ?まともな交渉できる雰囲気か?」
「交渉なんてしなくてもいい。門の前で正座して待とうぜ」
「それが一番怪しいわよ」
「もうおなかすいたー!」
話がまとまらないまま、俺たちは砦の正面門に向かった。
石畳の道を抜け、門の前へと進む。
すると――
ピュンッ!ヒュンヒュンヒュンッ!!
「矢!?うわっ!!」
門の上から矢が、まさに雨のように降ってきた。
ドスドスと地面に突き刺さり、一本はデフリーの頭をかすめた(帽子が飛んだ)。
「こりゃあ歓迎されてねぇな!」
「ちょっと!私の髪、危ないとこだったじゃないの!」
「もういや!痛いのキライ!」
俺は叫んだ。
「退却!退却だっ!!」
俺たちは全力で駆け戻った。草むらに飛び込み、息を切らしながら地面に伏せる。
「……当たり前だよな。どう見たって怪しかったもんな」
土の匂いと汗の匂いが混じった中、俺は自分たちの姿を思い浮かべた。
草むらから突撃してくる豚のオーク、
虫食い美人
角の生えた小太りな少女、
そしてブサイク顔の俺、ホブゴブリン。
ずぶ濡れになった泥の上で、全員息を切らして倒れる。
「……誰だよ、突っ込もうとか言ったやつ……」
「……ちょっと……想像以上だったわ……」
「矢ってこわい……当たったら死ぬやつ……」
誰もが黙りこくった。
しばらくして、デフリーが小さく呟いた。
「すまん……俺、腹減ってて、見えなくなってた。冷静じゃなかった」
「私も。兵器を見るって気持ちが先走ったわ」
「わたし……悪ノリしたかも……ごめん……」
俺はゆっくり体を起こし、3人の顔を見渡す。
「……でもさ、失敗してよかった。俺たち、今、ちゃんと話せてるから」
少しの沈黙のあと、4人は顔を見合わせ、同時に笑った。
「これからは……ちゃんと策を練ろうぜ。俺たちは“チーム魔物”なんだから」
「うむ。料理も戦術も、準備が命だな」
「次は裏からこっそり行こうかしら?」
「おやつ作戦とかどうかな!」
夕暮れの草むらに、4人の魔物の影が揺れる。
共に傷つき、逃げ、反省した仲間。
俺たちは“怪物”だけど
怪物なりに、チームになりつつある。そう今日の出来事を反省したのだった。
まぁこれは「急がば回れ!」ってやつだ。森を進みます。