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逆さまの蝶  作者: あさき
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4.非日常

駅前のざわめきから一歩離れると、

街の喧騒は次第に薄れ、心地よい静寂が広がる。


いつもならただの散歩で済むはずの道が、今日は何か特別な光を帯びているように感じられた。


山々に囲まれ、建物よりも畑が広がるこの道には、春の兆しを告げる草花がほのかに顔を出し、

淡い光と影がゆっくりと交錯していた。


これまで恋愛に興味はあったものの、

実際に心が大きく揺さぶられるような出会いは、一度も経験したことがなかった。

それでも、いつの間にか胸の奥に、温かくも儚い何かが芽生えているのを感じた瞬間があった。


ーー脳裏に浮かんだのは、彼女の姿だった。


「……」

なんだ、これ。


不思議な感覚に包まれる。

あの丘の上にいる彼女を想うと、今まで感じたことのなかった、確かな熱が胸を満たしていくのを感じた。


足取りは、普段なら淡々としているはずなのに、今日はどこか特別な導きに従うかのようだった。


周囲の景色は、日常の単調さの中にどこか非日常の色彩をそっと散らし、その美しさに気づけば心が引き寄せられていく。

まるで、静かな波がさざめくように、心の奥底にあった無数の期待が、次第に明確な形を帯び始めるようだった。


自然と進むその道は、いつもの日常と、何か幻想的な世界との境界を徐々に曖昧にしていく。


風の音や、遠くでささやく季節の変わり目が、まるで囁くかのように、

心に新しい感情を呼び覚ましていく。


僕は、自分でも知らなかった期待と、不安さえも感じながら、そのまま歩みを進めた。


やがて丘のふもとに近づくと、一本だけ置かれたベンチが、薄明かりの中に浮かび上がっていた。


その瞬間、これまでになかったほど胸が高鳴るのを感じた。

かすかなけれど確かな温もりが、これまでの淡い憧れを現実へと引き寄せようとしているようだった。


この一歩が、僕の日常と非日常の狭間を自然に溶かし、ずっと求めていた、誰かに心を奪われる瞬間へと導いてくれるのだと、


静かに、しかし確実に感じ取っていた。

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