3-2.日常
「てかさ、あいつマジで受かると思ってなかったんだけど」
ファーストフード店の片隅で、友人たちの笑い声が軽く響いていた。
テーブルには食べかけのポテトと、溶けかけたドリンクが散らばっている。
春休みだからって、何か特別なことが起こるわけでもない。
こうしてなんとなく集まり、なんとなく話す。
内容はいつも、同じクラスの話や進学先のこと、適当に拾ったSNSの話題ばかりだ。
「和音、お前って高校入ったらどうするんだ? 部活とかやるのか?」
と、ふと名前を呼ばれた。僕はストローをくわえたまま、肩を軽くすくめた。
「別に。やる気があればやるし、なければやらないだけだ」
「相変わらずだな、お前」
と、からかうように誰かが笑いながら続ける。
「てか、ピアノはやめたんだっけ?」
「あー、この前で最後だった」
「そのルックスでピアノ弾けるの、やばすぎ」
と、また別の友人が冗談交じりに付け加えた。
「そういえば、卒業式の時、相川に告白されてたって聞いたぞ!」
と、軽口を叩く声が重なった。
相川は、いつも噂になっている存在だ。
かわいらしくも芯のある雰囲気で、男子からは『天然な可憐さ』と評判の子だが、本人はあまり目立とうとはしないらしい。
「おい、その話、もっと詳しく聞かせろよ」
話題はいつも唐突に進み、やがて恋愛の話へと変わっていく。
「お前、彼女とか作る気ないの?」
「そんなにモテるのに、相川に告られても断るって、なんなのさ」
僕は曖昧に笑いながら、視線を窓の外へと逃がす。
「誰かに好かれるのと、誰かを好きになるのは全く別だよな」と、ぼんやりと考える。
特定の誰かに好意を抱かれているのは知っているが、僕自身の心は、そんな中で大きく揺れることはなかった。
その違いが、いつの間にか自分の中で深くなってしまったのかもしれない、と、不意に感じた。
「まあそのうち、いい人いたらな」
と曖昧に笑い、視線をまた窓の外へ逃がす。
その時も、胸の奥で確かに何かが動いている気配を感じながら。
昼食を少し遅く終え、解散になったのは午後三時過ぎ。
駅前で手を振り、スマホをポケットにしまったとき、またあの場所のことが頭に浮かんだ。
気づくと、足は自然と、あの丘へと向かっていた。