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7.
夢を見た。
遠くに光があった。
淡い朝靄のような空気の中。
少女がひとり、風に溶けるように立っていた。
髪がゆるやかに揺れているのに、顔は見えない。
まるでそこに在ることそのものが幻のようで、見ているそばから、輪郭が滲んでいく。
次の瞬間、少女の身体がそっと、霧のように光に変わっていった。
風が吹くたびに、その光は細かく砕け、空へと舞い上がる。
ーー待って。
声を出した気がした。
けれど言葉は音にならず、足は動かない。
気がつけば、手の中に、小さな光がひとつだけ残っていた。
それは温かくも冷たくもなく、ただ、存在だけが指先に感じられる。
落とさないように、そっと握りしめる。
けれどその光は、まるで最初からそのつもりだったかのように、ゆっくりと消えていった。
ふと顔を上げると、そこはあの丘だった。
風は止み、草は動かず、世界は音を失っていた。
誰もいない。
少女の姿も、光の欠片すらも。
ただ、寂しさだけが風景のすべてを覆っていた。
ーーまるで最初から、何もなかったように。