4-4.非日常
ふと、彼女が小さく息を吸い、こちらに向き直った。
そして、まるでずっとタイミングをうかがっていたように、問いかけてくる。
「じゃあ……君は?
なんで、ここに来るの?」
その言葉は、驚くほど自然で、それでいて不意を突くように胸に飛び込んできた。
「……え?」
思わず声が裏返った。
目を瞬かせて、言葉を探す。けれど、すぐには出てこない。
来る理由なんて、今までは考えたこともなかった。
ただ、気づけば足が向いていた。
彼女がいるかもしれないと思うようになったのは、つい最近のことだったはずなのに。
「……それは……」
うまく言葉にできずに戸惑う僕を、彼女はじっと見ていた。
そして、少し意地悪そうに目を細め、いたずらっぽく笑う。
「ふふっ」
その笑みはどこか子どもっぽくて、けれど、確かに胸の奥をくすぐってくる。
まともに視線を返せないまま、視線を落とした僕に、彼女はそっと声を重ねた。
「……でも、さっきの答え、ちょっと違うかも」
顔を上げると、彼女は空の方を見ながら、ゆっくりとつぶやいた。
その表情は、さっきよりも少しだけ照れくさそうで──でも、まっすぐだった。
「今日はね。……君に、会えるかなって思って来たの」
その言葉は、どこまでも柔らかくて、どこまでも真剣で。
春の風のように、あたたかく胸を撫でていった。
心の奥に、ゆっくりと灯りがともる。
知りたいだけでは物足りない。
これはもう、ただの興味や憧れじゃない。
彼女の声を聞くたびに、表情を見るたびに、心が動く。
気づけば、何かを返すように微笑んでいた。
ただそれだけしかできなかったけれど、今はそれで充分だった。