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9,噂の状況を知りまして


「フルール、何があったのか話してくれるかい?」

「そうよ、フルール。白状なさい。昨日の今日で、何がどうしたらあんな噂になるっていうの?」


 アレットとダニエルに詰め寄られ、フルールはこれでもかというほどに体を縮こませながら、正座させられていた。

 今日も今日とて裏庭で、である。




 朝、フルールが登校すると、昨日とはまた違った視線がこちらを向いた。


 変わらず嫉妬に燃えるような視線もあり、それは昨日よりも更に熱量を増している気さえした。

 その人達は今にもハンカチを噛み出しそうな、血走った目でこちらを睨んでいて、令嬢らしからぬ鬼のような表情にフルールは震え上がった。

 しかし昨日とは違って、何やら同情的な視線やフルールを伺うような視線も混じっていることに気が付いた。


 何が何だか分からないまま教室へと向かうと、クラスメイトも似たような表情をしていた。

 フルールが首を傾げていると、心配そうな表情をした令嬢達から声を落としてこう聞かれたのだ。


「フルール様、その……とても言いにくいのですけれど、カスタニエ様に何か弱みを握られて、脅されていらっしゃるの?」


と。

 フルールは目玉が零れ落ちそうなほど驚いて、そのまま固まってしまった。

 ただびっくりして返事出来なかっただけだというのに、言葉を詰まらせて困っていると受け取った令嬢達は「やはりそうですのね!」と騒ぎ始めた。


 令嬢達の想像力は実に豊かで逞しく、己の考えをまるで真実かのように話し始めた。

 どうやらテラスでの一件を見ていた者達が、フルールは何か逃れられない弱みをユベールに握られてしまい、下僕のように使われているのではないかと噂を流したのだ。


 また、ユベールから命令されるようにお茶係を命じられ、普段穏やかな表情をしているフルールが神妙な顔で生徒会室に入っていく現場も見られていた。

 その話も相まって、フルール下僕説という噂に拍車がかかってしまったらしい。


「本来であれば『生徒会のお茶係』なんて、羨ましいことこの上ない名誉なことですけれど……」

「どうかご無理ならさないでくださいましね」


 フルールには令嬢達の言葉の全てが分からず、たじたじと「え、えぇ……ありがとうございます」と返事を返すと、ただ答えに(きゅう)した態度さえも現状を苦しんでいるようだと受け取られたらしい。

 令嬢達は「なんてお労しい」「一体何があったのかしら」と囁き合いながら、フルールの元から離れていく。

 当然そのやり取りを聞いていたクラスメイト達も、ヒソヒソとこちらを見て話している。



 これは――マズくありませんこと……?



 そう肌で感じたフルールは昨日と同様、昼休みの時間になってすぐ隣のクラスに突撃し、アレットを呼び出した。

 アレットもそのつもりだったようで、既に教室から出る準備をしてくれていた。

 そこへ走ってきたのが、一番遠いクラスのダニエルだった。

 息を切らせ「ちょっと僕もフルールに確認しなきゃと思って」と駆け付けてくれたダニエルを見て、二人の友達が自分を想ってくれていることに感動していると、フルールの教室に突撃してきた上級生の令嬢達が「メルレ伯爵令嬢はいまして!?」と教室前で大声を上げていた。

 フルール達は令嬢達の様子を見て、慌てて人波に紛れて逃げ出し、再び裏庭にやって来たのだ。


 食堂や売店に寄っていられる余裕もなく、昼食をどうしようかと途方に暮れていたが、アレットが手にしていたバスケットをずいと差し出してきた。


「こんなこともあろうかと、家の者に用意させて正解でしたわね……」


 そう言いながらアレットがバスケットを開くと、そこにはシャリエ侯爵家のシェフお手製のお弁当が詰まっていた。

 女神でも崇めるかのように「アレット……っ!!」と手を組むフルールにデコピンをしたアレットは、お叱りモード全開でフルールを正座させ、全て話すまで食事禁止を宣言した。

 悲痛な表情を浮かべ「そんな……っ!?」と打ちひしがれるフルールにダニエルが声をかけた。

 それが冒頭の言葉である。



 フルールは令嬢達に呼び出されたこととその時の会話、その後ユベールが迎えに来て生徒会室に連れられ、そしてお茶係を引き受けるに至ったこと。

 それらを赤裸々に話した。

 ダニエルへの恋心の部分だけを伏せ、友達として心配だとユベールに話したことにし、かつお茶係が居ないことで困っていそうだったから引き受けることになったのだと説明した。

 聞き終えた二人は頭を抱え、苦悶の表情を浮かべる。


「フルール、まさかとは思うけれど、君『生徒会のお茶係』がどういうものか知らないのかい?」

「どういうものか……? ただお茶を入れて差し上げる係なのではなくて?」


 きょとんとしたフルールにアレットが両肩を掴み、ずいと顔を迫らせた。


「貴女ね! 『生徒会のお茶係』は歴代、生徒会役員の婚約者のどなたかが務める係なのですわよ!!」

「……へぇっ!?」

「ですから去年は、生徒会長である王太子殿下のご婚約者であるクレア様……クレア・ルモワール公爵令嬢がお茶係を務めていらしたわ」

「今年度の生徒会長であるユベール様には婚約者が居ないだろう? 僕は最近お見合いをしたばかりで婚約者が居なかったから別だけど、他の生徒会役員の方のご令嬢達をお茶係にする話も上がったんだ。だけどねぇ……」


 ダニエルは言葉を濁しながら頭を搔いている。

 フルールがアレットへと視線を向けると、ダニエルの言葉を引き継いで話し始めた。


「今、生徒会役員を務めているご令息方の婚約者であるご令嬢方は、とても極端でしてね。内二人はあわよくばカスタニエ様に見初められないかと考えるタイプの、より上位貴族に嫁ぎたいと思う野心家で、あともうお一人はあまり気が強い方ではなくて、カスタニエ様の威圧的な雰囲気に耐えられる方ではないのよ。初めのお二人は令息の方がお茶係として声をかけたくないと拒否され、もうお一人は令息が声をかけられたけどご令嬢の方が泣き出しそうになってしまわれたそうで。それはもう噂になりましたのよ」

「ひ、ひえぇ……」


 フルールはそんな話に興味がなく、もし話が飛び交っていたとしても耳を傾けてこなかった。

 きっと噂にはなっていたのだろうが、右から左に聞き流していたに違いない。


「だから今代のお茶係は空席のままだったんだよ。確かにお茶が飲めないと味気ないけれど、それでもいいと思うくらいに、それぞれ婚約者のご令嬢にお茶係は任せられないと判断されたんだ」

「その座を貴女が射止めた。つまりそれを見た周囲はどう思うかしら?」


 フルールは口をはくはくとさせる。

 そんなもの、周りからは間違いなくフルールがユベールもしくはダニエルの婚約者として見られるに違いない。

 ダニエルには今お見合いの話があり、何よりもフルールとの関係は昔からの幼馴染だと広く知られているため、多くはユベールに選ばれたと考えるだろう。


「だ、ダニエル……! 誤解よ、わたくしはっ!!」

「大丈夫だよ。今の話を聞いて、フルールがユベール様の婚約者として係を引き受けたわけじゃないことは、よく分かったから。君はただの善意で引き受けてくれたんだよね」


 ダニエルからよしよしと撫でられ、フルールは瞳を潤ませる。

 まさかそんな係だとは露知らず、フルールはとんでもないことを引き受けてしまったと頭を抱えた。

 アレットはユベールの思う通りに事が運んでいる様子を見て、無の表情を浮かべた。

 流砂に足を踏み入れ、藻掻けば藻掻くほどずぶずぶと抜け出せなくなっていくフルールを想像し……静かに合掌する。


「あ、アレット……?」

「――コホン。なんでもないわ。とにかく、貴女は今そんな状況なの。テラスでの話もどんどん広まっているわ。昨日までと同様、貴女がカスタニエ様に付き纏っていると考えている者と、カスタニエ様が権力を盾に、フルールを下僕のように強いているのではと考える者と二分していて、学園中が貴女に注目している。暫くどころか、今年の学園生活は穏やかに暮らせないと諦めなさい」

「そ、そんな……っ!?」

「僕達もなるべく力になるから。……諦めた方がいいと思う」

「ダニエルまで!?」


 まさかのダニエルにまで匙を投げられ、フルールは悲鳴を上げた。

 アレットからもう食べていいわよと言われたが、フルールの心はそれどころではなかった。

 シャリエ侯爵家シェフお手製の素晴らしいお弁当だというのに、フルールはまるで砂を噛んでいるかのような食事をとることになってしまったのだった。




砂ジャリィ……

ユベールの魔の手(笑)から逃れられず、ずぶずぶと埋もれていくフルールちゃんです(合唱)

これからもどんどん埋もれていくわけなんですが、さてその砂はただの砂かしら……?


明日・明後日は土日で2話更新致します!

12:00と18:00予定で、

フルールちゃん〇〇〇再び!?の回になります!

お楽しみに!!



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是非とも応援宜しくお願い致します( .ˬ.)"

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