14,恋の相談を受けまして
タイトル、こっちの方が正しいのでは……?と思い変更しました……!(3/5)
以前からご覧下さっている方、タイトルのみの修正で本文修正はございませんので、続きからご覧下さい( .ˬ.)"
ローズ達と友達になってから、フルールはとても落ち着いていた。
二人や己が婚約や結婚をしても、どんな立場に変化したとしても、三人がずっと友達に変わりないと気付けたことが大きかった。
――とはいえ、悩みは尽きないもので。
ローズ達と友達になろうとも、周囲の状況は変わらない。
人の噂も七十五日と言うけれど、あれからひと月経てども相変わらずフルールは注目の的で、噂が引いているのか逆に膨れ上がっているのかさえ定かではない。
不憫に見られる目にも、嫉妬で射抜くような目にも、フルールは「誤解です……!」と心で念じる他なく、どうにかほとぼりが冷めないものかと頭を悩ませていた。
あれから生徒会室には毎日出入りしていて、ダニエルと話す時間も増え、自称恋の相談役としてレオノルのことを聞く機会も増えてきた。
ダニエルからレオノルの婚約者候補として、月一でお茶会やデートをする約束が出来たと聞かされたが、フルールはそれを素直に受け入れることが出来た。
ダニエルと話した後、約束通りユベールに聞いてもらった。
ユベールには「苦しくないか?」と心配されたが、心は痛むことなく温かくなり、無理することなく「大丈夫ですわ」と笑顔で返せたのだ。
心臓が掴まれたような痛みを感じることは、もうなくなっていた。
生徒会に所属するローズ達の婚約者三人とも、少しずつ話せるようになってきた。
周囲は色々と勘繰って未だ騒がしいが、生徒会に通うこと自体には随分と慣れてきていた。
フルールは確かに小心者な上におっちょこちょいな面がある。
しかし、昔アレットがフルールのことを「愚かな子ではない」と言ったように、実はフルールは出来が悪い子ではないのだ。
いや、寧ろ人よりも気が利くとも言えた。
フルールはただお茶を入れるだけではなく、人の顔色を伺ってリラックス効果のあるお茶や疲労回復効果のあるお茶など、その時その時に合わせて準備をしていた。
無機質だった生徒会室に花瓶を置き、自ら花壇で花を摘んできて入れ替えたり、資料の索引がしやすくなるよう仕切りを作りラベルを貼ったり、少なくなってきたインク壺を見付けては補充したりと、細々とした小さなことだが、痒いところに手が届くととても評価されていた。
お茶係に選ばれたからといって調子に乗る様子も出しゃばる様子もなく、生徒会役員のような上位貴族の令息達に囲まれながら色目を使うこともない。
そんな様子に副会長のエリゼがフルールを揶揄って、
「君は本当に素敵なレディだね。将来きっと良きご夫人になるのだろうね」
と言うと、顔を真っ赤にして後退りながら
「そういうことはセシリア様に仰ってくださいませ!!」
とフルールは悲鳴を上げていた。
それを見たエリゼはからからと笑い、セルジュは溜息を吐き、ジュールは肩を竦めていた。
ちなみにダニエルは苦笑していて、ユベールは深く頷いていたのだが、フルールはそれどころではなく慌てふためいていたため、周囲の様子などまるで見えていなかった。
後日、フルールからその話を聞かされた三人はというと、ローズを先頭に「いたいけなフルールを弄んだ副会長はどちらに!?」と生徒会室に押しかけることとなる。
どうやらエリゼは自分にこう言われてもフルールが靡かないか、本性を表さないかを見極めるために声をかけたらしい。
結果、婚約者のセシリアにそっぽを向かれる事態に陥り、彼は必死で謝罪していた。
そんなエリゼに対し的確に注意するセルジュや、諭すように言葉をかけるジュールを見て、どうやらローズやアーティはそれぞれの婚約者に対し良い印象を持ったらしい。
今度は二人がこれまでの態度を謝罪し、関係を変えていけたら……と、そんな話をしていた。
嬉しそうにくすくすと笑うフルールに、ユベールが「楽しいな」と声をかけ「そうですわね」と笑みを返す。
賑やかで楽しい、和やかな生徒会と淑女会の関係が出来つつあった。
「フルール、少しいいかな?」
ある日、ダニエルから声をかけられ、資料保管室へと案内された。
生徒会室にはユベールとエリゼが居て、どうやら使用許可を取っているらしい。
設置されているソファに腰かけると、ダニエルは少し悩みながらもじもじと話し始めた。
「そ、その……。レオノル嬢と次に会う約束がお茶会ではなく、その……で、デートになったんだ」
「まぁ!」
「ちょっとフルール! 声が大きいよ!」
デート話に浮かれて高い声を出してしまったフルールを、ダニエルが窘めた。
フルールは口元を押さえ、そろりと隣室へと視線を向ける。
男女二人が密室にならないよう、一応扉は薄く開けてあるため、フルールの声は恐らく丸聞こえだっただろう。
「……コホン。それで、どうかしましたの?」
「二回お茶会をして、次が三回目なんだけれど、僕は当たり障りない話しか出来ないし、レオノル嬢を楽しませてあげられているか不安でね」
フルールは困った表情を浮かべるダニエルに驚いた。
これまで自分が頼りにしてきた彼の悩む姿を、不躾ながらまじまじと見てしまう。
「次会った時に、夏休みの予定を伺いたいんだけど……どう切り出せばいいか分からなくて。例えばプレゼントを渡すにしても何がいいか、どうすればいいか悩んでいてね」
「それで、わたくしに?」
「うん。アレットは侯爵令嬢だし、それに彼女は気が強いから、多分この手の話をしたら『だらしない! 男を見せなさいよ!』と蹴られてしまいそうじゃないか」
肩を竦めるダニエルに、フルールは笑って「確かにアレットなら言いそうね」と返す。
「レオノル嬢はしっかりしているようで、時々抜けているところもあってね。それがとても可愛らしいんだ。少しフルールに似ているところもあるんだよ、彼女は」
レオノルにしっかりしている印象を持っていたフルールは、自分と似ているところがあると言われて目を瞬いた。
また、抜けているところが可愛らしいとは?と首を傾げる。
「フルールと同じくレオノル嬢も伯爵令嬢だから、これくらいなら貰っても気後れしないものとか、喜ばれるものとか、何か思い付かないかなと思って」
「気後れせず、喜ばれるもの……」
フルールはこれまで男性からのプレゼントなんて意識したことがなかった。
そもそも誕生日に祝いの品が届いても、家として送ってくるくらいの仲でしかない友人知人ばかりだった。
個人として祝ってくれていたのは、父のレジスを除けばアレットとダニエルくらいだ。
異性と言っても片や父親、片や幼馴染。
意識をする機会などあるはずもない。
うーんと頭を悩ますフルールが思い付いたのは、ユベールと一緒に食べたケーキだった。
あれはプレゼントではないが、気遣いという意味で考えれば、あれほど嬉しかったことはない。
「レオノル様はご自身の領地のことがお好きかしら?」
「うーん。まだ二回しかきちんとした場では話していないし、それに本心では領地を嫌いだと思っていても、婚約者候補にそんなことは言えないだろうしね」
「そ、それはそうですわよね」
もしレオノルがフルールのように領地を大切に思っているのなら、領地に纏わるものを見繕ってプレゼントすれば喜ばれるのではと思ったのだ。
しかしダニエルが言う通り、領地が好きかどうかと聞かれて、本心がどうあれ嫌いと答える人はそう居ないだろう。
それなら、とフルールは手を打った。
「ダニエル、貴方は領地が好きよね」
「えっ? あぁ、そうだね」
「レオノル嬢が仮にダニエルの婚約者に決まって、本当に結婚することになれば、いずれ侯爵になるダニエルの元に嫁いでくることになるのよね?」
あまりにもあけすけなフルールの言葉に、ダニエルの頬は少しずつ赤らんでいく。
か細い声で「そうだね」と返事をするダニエルを見て、フルールはいじらしくて可愛いと感じてしまう。
「でしたら、貴女が来る領地にはこんな素敵なものがあるんだよって、ベクレル侯爵領の魅力が伝わるようなプレゼントはどうかしら? 領地の話を出せば、そのタイミングで帰省や旅行の話も聞き出せると思うの」
「なるほど」
「あと、もし調べられるのなら、レオノル嬢のご実家であるソラン伯爵領の特産品や特色を見て、将来的に何か事業提携が出来そうなものをプレゼントするといいかもしれませんわね。レオノル嬢が伯爵領を大切に思っている様子が伺えたら、それを伝えてみてはどうかしら。そうすれば、嫁いでからもご実家と繋がっていられる安心感や、ご実家の力になれる多幸感が得られると思うの」
「……そっか。婚約や結婚について漠然としか考えていなかったけれど、本当に結婚するとなれば、嫁ぐ不安や生家を離れる寂しさをレオノル嬢に強いることになるんだよね。その不安を和らげてあげられて、何より双方の利益にもなる……! それ、凄くいいね!!」
ダニエルはフルールの言葉を噛み砕きながら呟くと、感極まった表情で、フルールの手を両手でがしりと掴んだ。
幼い頃に何度も見た、少年のような屈託のない笑顔で
「ありがとう、フルール! 君は本当にそういうところによく気が付くね!」
と言われ、フルールはじわりと涙が浮かびそうになる。
フルールが「大袈裟よ」と笑みを返す頃には、ダニエルは立ち上がっていた。
何かを思い付いたらしくフルールに「ありがとう!」と感謝を述べた後、資料保管室どころか生徒会室からも出ていってしまった。
暫くそこに座り呆けていたフルールの元に、ユベールが静かにやってきた。