スパーク
躁状態が極まると五感が研ぎ澄まされ、3日位は寝なくても大丈夫な覚醒状態になる。これはスパークとも言われ、最も危険な躁状態になる。決められた薬を飲まなかったり、飲酒や喫煙の過剰摂取により引き起こされる。
そんな非常時に役立つのがとん服薬である。1ミリリットル程の少量だが、食後の薬を飲むまでの中継ぎとなってくれる。
ユウタは時々スパークしては寛解を繰り返しているようだった。こう言うのは患者本人には分からないので、周りの大人がある程度気にかけてやるのが肝心である。
それにしても社長の存在はユウタの人生を変えた。ユウタが精神障害者と分かっていながら、よし。俺が面倒を見ると手を挙げてくれたのだ。「よく寝たか?薬は飲んだか?」と常にユウタの状態を定点チェックしてくれる。
これはモニタリングと言う認知行動療法のオーソドックスな治療方法で、クライシスプランを策定する上で重要なベースとなるものである。クライシスプランとは、いつどんな時にどんな対処をすれば良いかを表にしたもので、最悪の場合警察沙汰や入院に至る恐れがある。そうならない為に日々薬を飲み、規則正しい生活を送る事が重要なのである。
ユウタはそんな事そっちのけで、行動するものだから両親も社長も周囲の人間も振り回される。既に人生も後半戦に入ったユウタにとっては病気との向き合い方も、対処療法もユウタ自身が最もよく分かっている事で、他人の入れ知恵等不要なのだが、まだ入院せずに自立気味の生活を送れているユウタは立派である。
ユウタは女癖も悪い。女好きで躁状態になると、あれもこれも欲しくなり性欲の制御がつかなくなる。明るい性格で積極的なユウタは、アプローチが難しい場合でも、得意の口八丁で女友達を困らせる。パートナーを欠かした事のないと豪語するユウタであったが、これも自信過剰になる双極性障害特有の性格であり、特に躁状態で見られる性格的特徴である。
自信に満ち溢れ何をしても上手く行くと思い込む。双極性障害の躁状態で見られる自信過剰状態であり、分かりやすい。この様な状態下では、何を助言しても寝耳に水であり、よほどの信頼している特定の人物(例えば主治医)の言う事を聞くくらいの感覚にまでなる。元々の性格的特徴でもあるのだが、躁状態ではそれがより際立つのである。