自立への足跡
何度も言う様だが双極性障害と言う病気は、病気である事を自覚し、きちんと薬を飲み続け、規則正しい生活を送って飲酒や喫煙に気を付ければ、完全寛解状態を保てる病気である。
ユウタはたまに酒を飲み、愛煙家である為、薬を飲むタイミングもマチマチである。躁転とまではいかないが、軽躁状態と寛解状態を繰り返している。
重度の躁状態を何度も経験しているユウタにとっては、軽躁状態は許容範囲内なのであろう。調子も比較的良く、調子の悪い時の対処方法も分かっているユウタは、頓服薬(リスペリドン内溶液1mg /ml 0.1%)を上手く使いながら、病状をコントロールする様になっていた。
思えば病状のきっかけはマリッジブルーによる鬱状態であった。3人の子供小さいうちは、病気がどうのと言う事がよく分からずにいた。
ただ、一家の大黒柱として、ガムシャラに働いた。結果として、16年もの長きに渡りルート営業マンとしてのキャリアを積んだ。病気が悪化したのはヒトミと離婚して実家に戻った時からである。
流石に両親だけでは対応が難しくなりM病院に入退院を繰り返した。それでも両親はユウタの躁状態に四苦八苦して、社長が登板する事になった。
社長預かりの身となったユウタは半独居と言う形で、実家の両親や社長の支援の元で生活再建を試みる事になった。経済的には余裕は全く無かったが、障害者年金やバイト代などお金の管理の一切を社長が引き受けている。
もちろん、ユウタも人間だ。贅沢もしたいし、女性とデートもしたい。とは言え、病院での診察代や薬代などはちゃんと社長から支払って貰っている。
とりあえず、今は社長の元でバイトしながらの生活に満足と言うか、落ち着いている事は確かである。だが社長も心臓が悪く60代の体にはガタがき始めている。いつまでもあると思うな社長と金。
とは言え、ユウタも失敗を繰り返しながらも少しずつ自立し始めている事に違いは無かった。それはユウタの事を知る人なら誰もがそう思っている事であった。