吸血鬼の首
「噂をすればなんとやら、だね」
登校するなりクラスメイトの視線を集めるタツミ。
それは、タツミのカールしたまつげや、きめ細やかな肌や、上品な形をした唇に、クラスメイトが目を奪われたわけではない。
「タツミ、お前のことを心配していたんだよ。変態吸血鬼に襲われでもするんじゃないかって」
変態吸血鬼。
美しく若い少年だけを狙う吸血鬼がいると、中高生の間で流行っている噂話。
タツミほど美しく若い少年は、格好の餌食だ。
そうは言っても、本気でタツミを心配している者などクラスにどれほどいるだろう。
幼稚園児がサンタクロースを信じない現代。吸血鬼などという存在を信じ込む中学生などいない。
しかし、シャツの襟からのぞくタツミの首を見て、教室内の空気が一瞬止まった。
首に絆創膏を貼っていたのである。
「転んでガラスにぶつかってね。ちょっとしたかすり傷だよ」
タツミの説明はイマイチ腑に落ちない。けれど、吸血鬼に吸われたというよりもよっぽど現実的。
変態吸血鬼など所詮は噂話だ。
・・・・・・・・・
「今日も俺んち来るのかよ。別にいいけど、今日は兄ちゃんいるからな」
未だ絆創膏を貼り続けているタツミ。変態吸血鬼の仕業だなんて言い出す奴はいない。
絆創膏を貼って登校してきてから変わったことといえば、放課後、友人であるタケの家に入り浸るようになったことくらい。
2人でテレビゲームをする。熱中するタケに対し、どこか落ち着かない様子のタツミ。
「さっきから、なんだよお前。小便でもしたいのか」
「…うん、ごめん。トイレ借りるよ」
ずっと入り浸っているから、トイレの場所は把握している。
だが、タツミの向かった先はトイレではない。
タケの兄が、リビングの大型テレビで映画鑑賞をしている。
「すみません、タケのお兄さん。トイレを詰まらせちゃったみたいで、見てもらえますか」
快く立ち上がる兄。
再婚家庭でタケとは血縁関係のないという兄は、下から見上げると鼻筋がよく通っているのが分かる。
トイレのドアを開いたところで、タツミは兄を力いっぱい中へと押し込んだ。
・・・・・・・・・
その日、トイレの中でタケの兄が死んでいるところが見つかった。
首には噛み跡があり、全身の血を抜かれていた。
タツミはトイレに立ったきり姿を消し、家にも帰らず学校にも来ず、どこの目撃情報もない。
けれど、死んだはずの兄の姿を見たという噂は耳にしていた。
美しさと若さを追い求める吸血鬼。
血を飲んだ相手の姿になるため、美しい少年を次々手にかけていくが、難点がひとつ。
同じ姿になるということは、首の噛み跡もコピーされる。その噛み跡が治った瞬間から急激に老いていってしまうのだ。
若く美しい姿を保つためには、噛み跡が治るまでに、次の美しい少年の血を飲まなくてはならない…。