8話 王の異名
今日は8話まで投稿予定です。これはラストの8話です。
俺たちを転生させた魔術師たちが言っていた。
栄華を誇った古代の王だと。
まずはカトレアが喋る。
「どうなんでしょうね。何となく嘘ではないような気がします。記憶がないので、どうも確かな感じはしませんが……」
気が付けばあの地下施設だった。
俺にも他の皆にも、記憶らしい物はほとんど残っていない。
欠片ほどの記憶は、自分の名前と……。
あぁ、いま降って湧いたように思い出した。
思い出したのは自分の異名だ。
「そうだ俺、たしか……。隠の王って呼ばれてたんだっけ」
俺はほとんど独り言のような小ささで呟いたが、皆が神妙な顔をして固まっている。
やや時間が空いてクロエが話しかけてきた。
「ヴィゴの異名……それ、わたし聞いたことある。あ、そうだ……わたしも思い出した。何で今まで忘れてたんだろ……わたしは鶴髪の王って呼ばれてたんだ」
鶴髪の王。クロエからそのワードを聞いて何故だか俺も、クロエがかつてその名で呼ばれていたことだけは思い出した。唐突な記憶の復活。そしてあまりにも部分的な思い出し方だ。
俺の台詞がクロエがの記憶が呼び起こすと、連鎖的に他の全員もかつての異名を思い出していった。
隠の王、ヴィゴ
黒鉄の王、アッシュ
骸の王、ティントア
鶴髪の王、クロエ
四元の王、フーディ
花冠の王、カトレア
だが、思い出せたのは異名だけで、その他はさっぱりだった。
骸や鶴髪など、王の特徴にちなんで呼ばれていたのか? と予想はつくが、とはいえそれ以上は考えを先に進めることも出来ない程度の情報だ。
結局、俺たちは王だったのか? という疑問は解決しそうにないのでアッシュが別の話題を口にした。
「なあ、魔術って、どうやってんだ?」
確かにそれは俺も気になっていた。
アッシュも俺も魔術方面の力には疎い。答えたのはカトレアだった。
「私としては、アッシュくんやヴィゴくんの身のこなしの方が驚きますが……。魔術というより、魔力の扱い方の差でしょうか」
「あー、たしかに」と言うのはフーディだ。
「あたしの場合は外に魔力を飛ばして、魔力で掴んで石とか投げてる。カトレアはたぶん、木とか草に魔力を流してんだよね?」
「ええ、その通りです」
「出来るか?」俺と似て体を使うスタイルのアッシュに聞いてみた。
「流す方はまるで分かんねえが、外に出す方はちょっとだけ出るぜ」
ベッドから立ち上がってその場で正拳突きをしてみせてくれた。
よく見れば一瞬、拳の周りがオレンジ色に光っている。
「この一瞬だけ出てるのって魔力でいいんだよな?」
「合ってますよ」
共に体を使って戦う方だが、俺とアッシュではやはり系統が違うらしい。どれだけ早いパンチを繰り出せても、俺の場合は魔力を放出することは出来なさそうに思う。
「クロエは?」
「わたしもカトレアと一緒で魔力を流すタイプだね。自分の髪に魔力を通して、それで動かしたり伸ばしたりしてるんだよ。カトレアも出来るんじゃない?」
皆の視線がカトレアに集まる。
カトレアは少し難しい顔をして髪が動かせるか挑戦してみた。髪は動いた。確かに動いたが、アホ毛が数本ピーンと立っただけだった。
「あー……無理ですね。たぶん、クロエの髪がなにか特別なんじゃないでしょうか? ……あの、この立ってしまった髪っていつ戻るんでしょうか?」
戻し方が分からなくなってしまったアホ毛がそよそよと風に揺れている。
「え、魔力を抜けばいいんだよ?」
「いや、あの、それが出来ないんですが……」
「まあ~、そのうち魔力が抜けきって戻ると思うよ?」
「それならいいんですが……」
カトレアが落ち着かなさそうにアホ毛を手のひらでトントンしている。
同じく魔力を通すといっても、対象物が違えばここまで扱いに差が出るのか。逆にクロエがカトレアのように葉っぱを手にして魔力を通してみたが、まるで変化がなかった。カトレアがやればただの葉っぱがナイフ並みの切れ味になる。
「一番分かんないのはティントアの死霊術だよ。どうやってんの?」
クロエがそう言って今度はティントアに目が向けられたが。
「…………」
返ってくるのは寝息ばかりだった。ティントアらしいな。
「……俺も寝るわ」
アッシュの言葉でなんとなく、その流れになった。
確かにさっさと休むべきだな。明日は夜明け前に出発の予定だ。ほとんど日の入りと同時に森に入ったので睡眠時間は十分とれるだろう。これから訪れる夜闇の中でやるべきこともない。
「クロエ、一応言っとくが、襲うんならヴィゴかティントアにしとけ。俺の方に来たら容赦なく締め落とす」
あぁ、そういう風な問題もあったか。
男側がそれの心配をするはめになるとは思わなかったが、クロエの今までの行動を見ていると笑って流すのも到底出来なかった。
ちらりと目をやる。
多少、上気したような顔と、息が荒かった。
そしてクロエと目があった。
やけに爛々としたその目が怖い。
俺は、何だかすごく怖くなって目を閉じた。無事に朝を迎えたいと切に願う。