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76話 ~3章~ 貧乏な英雄はひとまず眠った

 ディエゴ率いる神聖エドナ=ベルム教との闘いが終わり、俺達は二日ほど事後処理に追われていた。


 マーキル教皇への報告、マーキルの弟でありエドナ=ファドラ教のヘルメル教皇にも事の顛末(てんまつ)を話し、それから審問会を再編するための助言まで求められる。


 そりゃ神聖エドナ=ベルム教の祓魔師は今も紛れ込んでいるだろうが、それを炙り出す事や、敵と味方の見極めなど俺たちに出来るわけがない。


 とは言え、あちらとしても今回の騒動を最も知る者から少しでも情報を引き出さなければ不安なのだろう。その辺の面倒事はほとんどカトレアが引き受けてくれた。いつもいつも本当に頭が下がる思いだ。


 やらなければいけない様々な事が綺麗さっぱり終わり、俺たち”六人”が揃って宿に帰って来たのは昼下がりだった。全員が気疲れ、人疲れからベッドに飛び込んでボーっとする。


「すげぇ……疲れたぜ……戦うより疲れたわ……。ありがとうは聞き飽きた」


 アッシュにしては珍しい気力のない声だ。戦争の終結後、エドナ教一同と都市民から天使だ英雄だと持て囃され、初めの方は嬉しそうに勝鬨(かちどき)を上げて盛り上げていたのが。


 俺たち六人に対してあちらは何人なのか。

 一万回くらいの「ありがとう!」を受けて最後の方は死んだ笑顔で対応していたのだ。

 

「アッシュにしてはよく持った。あの世で我慢も覚えたか?」


「ばーか、ヴィゴ! 俺はな、俺を称える声を無下にしねーんだよ」


 なるほどね。まあ顔死んでたけどな。


「ねーアッシュ! 翼だしてよ~」


 フーディがアッシュの背中をさすって翼を見たがった。

 よほどお気に入りなのか何度も何度も見せろとせがむのだ。


「お前またかよ! これ出すのけっこう疲れんだぜ? 面倒臭くてベッドから起きたくねぇな~って時にドッコイショって立つ時くらい疲れんだから」


 だいぶ余裕じゃないか。


 アッシュが「ドッコイショ」と言いながら翼を出す。


 背中から直接生えるわけではく、翼の形に光が集まり、光と入れ替わるように翼が現れる。背と翼の付け根は不思議なことに離れている。ちなみに翼のサイズは変えられるそうで、今は部屋の中なので小振りな翼がぴょこんと出ている。


 真っ白の翼に顔をうずめてフーディは「スベスベのフワフワで美味しそう~」とご満悦だった。

 そんな手羽先じゃないんだから……。


 アッシュが翼を得た経緯はさすが黒鉄(くろがね)の王と言わざるを得ないほど豪快なエピソードだった。


 あの世で下っ端の天使を倒し、上級天使を倒し、ついに大天使と戦う事になったアッシュ。辛くも勝利を収めたが体力の消耗は著しかった。


 体力の回復にはメシを食うしかない、という発想をしたのだが、あの世にはパンどころか水もない。仕方ないので大天使からもぎ取った大翼を正拳烈火(せいけんれっか)の火で炙って食べたそうだ。


 感想はこうだった。


「癖のない味で肉質も適度に歯ごたえがあって良い感じだぜ。今回はそのまま焼いたけど次は辛めの香辛料に付け込んでから焼いてみてぇな」


 天使の食レポすんなよ。

 次ってなんだよ。もう二度とないだろ。


 大天使の翼を得て神気(しんき)という特殊な力を感じられるようになったアッシュなのだが、色々と体に変化が起きたようだった。


 まず、ティントアの事を怖がるようになった。

 死霊術師の持つ魂は黒々として不気味らしく、背後に立たれでもしたら冷や汗が止まらなくなっていた。


 ちなみにティントアの方もアッシュの持つ神気(しんき)が苦手だそうで「魂の気配があまりにも清らかでそわそわする。常に非難されている気分」とのこと。


 光と闇は両者ともに弱点を抱えるそうで、ぎこちない二人にどう対応すれば良いかと考えていたのだが、これは意外にもあっさりと解決する。


 男三人で風呂に行って背中を流し合うとすんなり打ち解けて元通りの関係になったのだ。裸の付き合いというのは偉大だな。


「これからどうしましょうか?」


 カトレアが天井をぼおっと見つめながら切り出した。


 今日なに食べる? とか

 どこ出かけます? といった話ではない。


 お金をどうやって稼ぎましょうか? の意味で言っているのだ。


 というのも、俺たちはアッシュ蘇生の代償に持ち金のほぼ全てが消し飛んだのだった。

 マーキル教皇のいう通り、不思議な力で強制的に負債を回収される。白金貨も金貨も気付いた時には財布から消え失せていた。


 聞いていた通りの結果なのだが、いざこの身に起きると驚かずにはいられない。本当にお金は大事だ。返済の対象外となるアッシュだけは俺たち五人と違って金銭に触れても消失させたりはしない。……なんでだよ。お前も借金を背負え。


 ちなみにマーキル教皇から受け取ったかなりの額の報奨金も触れた瞬間に消えてしまった。あれだけの量の金を支払ってもまだ返済し切れないとは、アッシュの値段は中々の物だ。もう既に家が建てられるくらいは返済しているのだ。


 金策についてクロエが翼を枕にしながら言った。


「手っ取り早いのは冒険者ギルドかなぁ? パーティのランクも上げて貰えたしさ」


 マーキル教皇が取り計らってくれたおかげで、六王連合はDからBランクの上級冒険者となった。


「いっそ最高ランクのSにしてくれよ」とアッシュが言ったのだが、教皇も元々そのように頼んでくれていたそうで「冒険者ギルド側が言うには、偉業は認めるが依頼達成数がたったの一つでは流石に無理だそうだ」まあ、ごもっともだ。


 冒険者ギルドからすれば六王連合は、何だかよく分からんけど色々やってるヤバイ奴ら、という印象だろう。いきなり上級依頼を受けられるようになっただけ幸運だと思おう。


 ティントアが今後の方針について口にした。

「しばらく教国でお金稼いで、負債の呪い、解くのがいいよね?」


 負債の呪いか、ちょっとかっこいいネーミングだ。


 どこに行って何をしても金はかかる。


 負債の呪いは何とも良く出来た仕組みをしている。


 例えば俺が金貨に触れたとする。すると金貨は瞬きの間にフッと消え、食事代と宿代を払えるくらいの銅貨や鉄貨だけを残すのだ。生かさず殺さず、おそろしい呪いである。


 第一目標、借金返済について全員が「賛成!」と返事をしたり手を挙げたりしたが、アッシュも同意したのは意外だった。すぐにどこか行きたがると思っていた。


「教国エドナはさすが宗教の国だぜ。清々しい聖なる気が街に満ちてやがる。しばらく拠点にすんのは俺も賛成!」


 とのこと。

 半天使になるとそういう感覚が生まれるらしい。

 逆に、治安の悪い国に連れて行ったら気が滅入ったりするのだろうか? 少し気になる。


「んじゃ、とりあえず明日から冒険者ギルドに行って金稼ぎだな。どういう風に依頼を受けたら効率いいかも考えないとな……」


「ヴィゴくんは全員で依頼を受ける考えですか?」


「そうだな。物によっては二つ受けて三人1チームに別れたりしてもいけるんじゃないかな、と思う」


「あぁ、そういうのもアリですね。私は、他にお金を稼ぐを方法がないかな? とも考えていました」


 ほう、さすレアである。


「せっかくエドナ教とも強いパイプが出来ましたし、頼めば仕事を回してくれそうじゃないですか? それ以外でも私たちなら上手く稼げる気がするんですよね」


「確かになぁ。ちょっと後で一緒に考えてみるか……ひと眠りしたら……」


「そうですねぇ……わたしも、少し寝たいです」


 すぅすぅと寝息が立っていたので横を見ればもうフーディが寝ている。他のメンバーにしたって目がトロンとしているのだ。


 金策と具体的な今後は、起きてから考えよう。

 起きたら風呂屋に行ってサッパリして、軽く食事して落ち着いたら頭も回り出すだろう。


 ゴロゴロと寝返りを打ってやってきたクロエが俺の服にしがみついて寝ている。どうも狸寝入りしている疑いがあるが、まあいいだろう。よほど大々的なセクハラでもないなら引っ付いて寝るくらい許してやるさ。


 そうしてまどろむ内に全員が夢の中に旅立つ。


 平和だ。お金はないが、こうしてのんびり寝ていられるのは凄く幸せなことなのだ、ここ数日が忙し過ぎて噛み締めるように惰眠を貪るのであった。


~~~ 用語集 ~~~


神気(しんき)】神や天使の扱う魔力のような物。霊や、悪人、邪悪な魔物などに対して非常に有効。通常は人が扱えるような代物ではないが、大天使の翼を食べたアッシュは半分天使のような存在になっている、とティントアが教えてくれた。……半天使か、正直めっちゃカッコイイと思っている。

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― 新着の感想 ―
負債の呪いは世の中の税務署と借金取りが泣いて羨ましがるな。ちゃんと生活費計算してくれるとか、頭いいし。 次はアッシュみたいな相手に金銭取引を代行して貰って踏み倒す詐欺が横行するんだ。歴史がそう言ってる…
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