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7話 これからの事と一休み

今日は8話まで投稿予定です。これは7話です。

 有りあわせの貧相な食事をしながら、今後について話す。


「状況はあまり良くない」

 俺は思ったことをそのまま口にした。


「見渡す限りで人の居そうな場所はなかった。


 見えた範囲の端っこまでいくのにだいたい三〇㎞はある。人が徒歩で一日に移動できる距離がだいたい三〇㎞だ。


 休憩も挟んで八時間は歩くことになる。まっすぐ迷わず行けて、ようやく街道っぽい道に当たるのに一日が必要ってことだ」


「まあ俺とヴィゴならもっと歩けるだろうけどな」とアッシュが言う。


 確かに俺もそう思う。


「さんじゅ……」と絶句するのは、やはりこの中では体力的に劣るであろうフーディだ。


「あくまで障害がなくて三〇㎞です」


 高所から戻ってきてようやく元気を取り戻したらしいカトレアが考え付くことを補足する。


「草原を行くなら見晴らしの良さに晒され続けることになります。戦うだけなら相手にならない鬼たちも、連戦するなら体力も時間も使います。


 そして、あんまり進行が遅ければ移動距離が減って街を探せる可能性も低くなります。いく先で十分な食料が確保できるとも思えませんしね」


 整理して話されるとますます実感を持ってくる。


 この俺たちを囲む困難の壁のがどれほどなのか、見えていない脅威や問題もあるだろう


「ふぉれ食ったらもうひゅっ発すんのか?」


 アッシュお前、似合うなぁ、その食いながら話すやつ。


「ふぉ? ひょっほとやっそーよ!」


 フーディも口に物が入ってなに言ってるか分からないまま話した。

 そうだな。フーディもそういう感じだろう。


「飲み込んでから、話そう」とワンセットみたいなティントアの指摘が入り、こくこくと小さな頭が頷いた。


「もう出発するの? ちょっと休憩したい」


「ええ、そのつもりです。もうじき日が暮れ始めます。ざっとここを見ましたが松明(たいまつ)らしきものがないんですよ。夜の時間は休むのに使いましょう」


 ようやくしっかりとした休憩を迎えられるわけか。アッシュはどうか分からないが俺でも疲れを感じていたほどだ。他四人はもっと疲労感があるはずだ。


 休む場所は北にある森の中でとることにした。


 壊滅させたとはいえここは鬼の拠点だ。

 出払っている者が戻ってきて余計な戦闘を発生させたくない。


 移動する前に鬼の死体を漁って金目の物を探す作業をカトレアが提案したが、あまりやりたくない事だ。


 まだ俺たちはそこまで死体について免疫がない。

 体温を失った体をまさぐって探し物とは、気が進まなかった。


「大丈夫、すぐ済む」


 ティントアが立ち上がり、両手を開いて虚空へ向けた。


 総勢で百はある死体がのらりくらりと立ち上がり、ぼろきれの服を自分たちでまさぐり出したのだ。死霊術はとんでもなく便利だが……こんなに殺したのかと、少し背筋が寒くなった。


 結局、あまり大したものは出てこなかった。持っているのはほとんどガラクタばかり、唯一目を引いたのは指輪だった。


 ちょうど俺たちの人数分で六つ。


 銀色に光る指輪は陽の光を浴びてきらりと輝いた。

 鬼の持ち物ではなさそうな気がする。


 彼らにこの歪みが無い綺麗で均等な輪が作れるだろうか。宝石もなにもはまっていないが、細い傷ひとつないツルツルの表面をしている。鬼に指輪の適切な管理が出来たとは思えないので不思議だ。


 材質が本当に銀であればそれなりの値段がつくだろうが、持ってみると異様に軽かったことから本当の銀ではない可能性が高い。


 ともかく、これくらいならポケットに入れて簡単に持ち運べるので各人が一つずつ持っていくことにした。


 鬼の拠点からニンジンっぽい野菜と水の入った革の水筒をあるだけ貰っていく。


 去る時、死体の山へ向けて祈るように拝むクロエの姿が、いつもと違った印象を残した。


 廃墟の街を出て森へ入る頃まで、太陽はまだ何とか沈まないで待ってくれていた。暗くなれば寝床をつくる作業も一苦労だろう。


 森の入り口から少しばかり奥へ歩き、ほどほどになだらかな場所を俺たちの居場所と定めた。


「始めましょうか」

「うん。みんなちょっと離れといてね」


 カトレアとフーディで寝床を作っていく。


 転がる石くれと枯れ木、落ち葉の山を一掃し、膝くらいまでしかなかった草を成長させ、そしてひとりでに葉を編ませていく。


 これは……草のベッドだ。


「後は、わたしだね」


 クロエの銀髪が強風に煽られたようにバサリと揺れる。髪を周囲に張り巡らせ結界を作っているのだ。


「よし、こんなもんかなー。イノシシ突進して来ても絶対に通れないよ! 髪の結界の外に出る時は言ってね。たぶん無理に通ろうとしたら体の方が切れちゃうと思うから」


 便利だ……。


 三人が居て本当に良かったと感謝せずには居られない。


 まさか森でここまで快適な空間を作ることが出来るとは……。

 アッシュも素直に三人を褒めていた。


 六人それぞれが自分のベッドに就いてからは雑談が始まった。


 それぞれが自分の近くの人と「今日は疲れたね」などと、よくあることを話していたが。

 

「俺らって、マジで王なのか?」


 アッシュの言ったこの台詞に、皆が思わず注目する。


 問題の核心だ。


 自分が本当に王なのか、王だったのか?

 俺だけではない。全員が少し真剣な顔をして口を開き始める。

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