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60話 ~2章~ クロエに甘くカトレアに優しい

 カトレアが機嫌悪そうに目を細め、頬杖を突きながら喋り出す。


 機嫌というより酒のせいで頭が痛くてそうなっているだけだが、いつもニコニコしているカトレアがそういう顔をしているとギャップで迫力がけっこう凄い。


 この顔のカトレアに丁寧な口調で冷静に詰められたりしたら俺はかなりへこむだろうな、とぼんやり思った。


四季麗人会(しきれいじんかい)という貴族主催の社交会が近日中に開かれるのですが、その会に来賓(らいひん)としてマーキル教皇が来るらしいです」


 貴族のお抱え傭兵をやっている者から得た情報だそうだ。


「確実な情報なのか?」


「ええ、信じるに(あた)うかと思います。

 エドナ=ミリアとしては社交会と言うより祭事の意味合いが強いそうで、

 代々の教皇も欠かさず出席してきた大事な会なんです。

 ミリアの教皇が連綿と続けてきたことですからね、

 こういう歴史のある行事に穴を空けるとは考えにくい。

 教皇ほど立場ある者が欠席すれば関係各所に波が立つでしょうし、それは避けたいはずです」


 なるほど。背景を知れば納得できる情報だ。


「さすがカトレア。酒は飲んでも仕事はする女!」


「いやぁ……本当はこんなに飲むつもりは無かったんですが……結果オーライな感じで良かったです。

 というか私が起きるまでお待たせしてすみませんでした。

 叩き起こしてくれても良かったですのに……」


 窓の外では小鳥がちゅんちゅんと鳴いている。

 カトレアは朝までぐっすり眠ってしまったのだ。


「んー……まぁ、叩いても起きなかったから仕方がない」


「……え?」


 カトレアに何か思い至る節があるのか自分の尻に手をやる。


「起きてから妙にお尻がヒリヒリすると思ったんですが……。

 まっ、まさかヴィゴくん……寝ている私のお尻を叩いて……?」


「俺が叩くわけないだろ」


 フーディが静かに挙手をしてからクロエを指さす。


 昨日の夜にクロエが「お風呂屋さんの時の復讐だ! おもっきり行け!」とフーディをけしかけ尻をビンタして起こそうとしていたのだ。


 フーディにやらせるところが何とも姑息である。


「ぐっ……甘んじて受けましょう。情報伝達が遅れたのは私の落ち度です」


 受け入れるのか。

 俺なら仕返しにクロエの尻を打つ……と思ったが喜びそうなので却下だな。


「その四季麗人会ってさ、俺たちが参加できそうな物、なのかな?」


 ティントアが思いついたことを口にする。

 貴族主催の伝統ある社交会なのだ。旅の者が入り込むのは難しいかも知れない。


「問題はそこですよね。聞いたところ紹介制ですので、何かツテがないと厳しいでしょう……ですが! 我ら六王連合には頼りがいのある(なばり)の王がいるではありませんか!」


 そう、俺が忍び込めばいいのだ。


 場所が割れているなら簡単なことだ。


「あ、ちょっと待って! ヴィゴに潜入してもらうのもいいけどさ、正規のルートで入れるかもよ?」


 思わぬ待ったがクロエから掛かった。

 冒険者ギルドで使えそうな話でもあったのだろうか。


「あれだよヴィゴ! あの、えーと……ペルフ・ぺゥ・ぺール・ペリぺールみたいな」

 

 ラルフ・ドゥ・ルート・ペリゴールだろ!


 そんなペルペルした奴いてたまるか。

 というか俺、よく名前でてきたな。


「ラルフ・ドゥ・ルート・ペリゴールだな。ペリゴール家の嫡男……とか言ってたはずだ」


「ペリゴール家といえばミリス教の主教八家(しゅきょうはっけ)ですね。他国でいうと侯爵相当ですし大物ですよ」


「あ~そうそう、主教八家ってのも自分で言ってた」

 

「いい感じに接触して四季麗人会に参加できないかな? ヴィゴが入り込んでもいけると思うんだけど、もともとは角が立たないようにしようとしてたじゃん?」


「時間がなさそうだから無理やりにでも教皇に会う方針だったけど、きちんと出席して教皇に会えるならそれが一番いいだろうな」


「そうですね。それで、ラルフさんとはどういう風に知り合ったんですか?」


 あぁ、そうだ。話が進むから説明してなかった。


 俺とクロエが尾行され、こちらから話しかけたら自己紹介して去っていった、ということを共有する。


「呼び止めて俺たちの関係性を聞いてきたからなぁ、

 クロエに気があるような感じだったけど、んー……どうなるだろうな。

 ラルフを通じて必ず教皇まで繋がれるかって言うと、不確かだろうな」


「じゃあ! クロエの色仕掛け作戦だね!」


 ドーン! とフーディが言った。

 ちゃんと話の流れは押さえていたらしい。


 うわあ、クロエ、嫌そうな顔してるなぁ。


「うぇ~……私そういうの苦手だと思うよ? そもそも嫌だし! 

 自分でペルフさんのこと言い出しといて何だけどさぁ」


 ペルフじゃなくてラルフだ。


「俺としては、クロエが気乗りしないなら無理にやらせたくはないな。

 他に手段が一切ないならともかく、俺が四季麗人会に行って教皇を見つけれくれば済む話だ。

 会を終えて外に出た教皇を尾行して、タイミング見て話すことも可能だろう」


「きゃーん! ヴィゴ好き!」と言いながらクロエがしなを作って喜んでいる。


「む、ヴィゴくん、クロエに甘くないですか? 

 取れる手段があるというのに次善策でいくとは、らしくないですね」


 甘いか甘くないかで言うと、カトレアが酔っぱらっていようがフーディが墓場で寝ていようがクロエがセクハラしてこようが俺はそう目くじら立てないので全体的に甘いと言えるかも知れないな。


「そんなに致命的な事にならないと思うんだよな。

 四季麗人会に教皇が出てくる、カトレアがこの情報を持ってきてくれた時点でクリアしたような物だ。

 教皇の場所が知れたら後は失礼のないように機を見て接触する……それでいけると思ってるからかな」


 カトレアが少し考える素振りをしてから喋る。


「では、折衷案でどうでしょう? 

 私としては教国の主教八家を放っておくのは勿体ないツテだと思います。

 ですので、クロエの色仕掛けはさて置き、こちらから接触を図る。

 流れ次第ではありますがクロエをだしに釣れそうなら……。

 クロエには少し踊ってもらうことになるかも知れませんが、どうでしょう?」


「カトレア……おしり叩いたの……根に持ってる?」


 クロエがカトレアの顔色を窺いながら言った。


「いいえ? 全く、これっぽっちも、微塵も、毛ほども、禍根はありませんとも!」


 だったらどうしてそんなに笑顔が怖いのだろう。


 完璧に屈託のない笑顔を見せているのに何故だか作り物めいて見える。


「まぁ……四季麗人会までに間に合うならやってみる価値はある」


「えー! ヴィゴ! カトレアに優しくない!?」


「いや別にこれは優しいとかじゃ……」


「そう、ヴィゴくんは私に優しいのですよ」

 

 何故だか勝者の笑みっぽい物を浮かべるカトレアであった。


 それではさっそく行動開始。


 ペリゴール家は他国でいうところの侯爵相当にあたる良家だ。そう簡単に会えてパイプを作れるようなら中小貴族や商人も困らないだろうが、とはいえ宿に居ても始まらない話である。


 ひとまず街に出てペリゴール家の屋敷の場所だけでも知っておくのが良いか、と提案したがクロエとカトレアが揃った動きでチッチッと指を振る。何だよ、仲良いな。


「分かってませんねヴィゴくん。相手は上級貴族ですよ? 身支度してお洒落してから向かわないと」


「そうだよヴィゴ。だから早くお風呂屋さんに行こう! ぐへへ!」


「いいですね! さっそくクロエのお尻を叩き返すチャンスが得られるとは!」


「ごめんなさいもう覗きません! ちょっ! ビンタの素振りしないでフーディ!」


 フーディがが腰の入った良い素振りをしていた。

 昨日もあんな鞭のようなしなりで寝ているカトレアの尻をブッ叩いていたものだ。


 社交会に出るならそれなりの服も必要、ということになり風呂に行った後は一式見繕うことになった。俺もそのうち良い意味での一張羅が欲しいと思っていたところだしちょうどいい。クロエとカトレアは既に一着持っていたのだが新しく買う気満々だった。


 金はそれなりに余裕もあるし、みんなが自分で持っている自分のお金の範囲で買うのだ。


 二着でも三着でも気がすむまで買ったって良いのだ。


 俺も何を選ぼうか少しワクワクしながら店に向かうのだった。

 

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