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57話 ~2章~ 常在戦場のアッシュ

 フーディが無垢魔炎術(むくまえんじゅつ)を習得した日の夜。


 俺たちは数日振りにアッシュと話すべくティントアにお願いして口寄せの術やってもらった。


 アッシュを蘇生させるまでにそこそこ日がかかりそうなことを伝えなくてはならない。


 ちなみに様子のおかしかったティントアは寝て起きたら元に戻っていた。いやぁ良かった、本当に良かった。


「じゃ、始めるよ」


 特に難しい顔をせず口寄せを始めるティントアだが、並の術者ではこういかないとカトレアが言っていた。そもそも呼ぶ事すら難しいのだそうだ。まったくうちの仲間たちは揃いも揃って頼もしい奴ばかりだ。


「おん? どしたお前ら」


 前もそうだったが本当に急に切り替わる。


 声がアッシュの物になるのですぐ分かるが、喋り出す前の目力というか、アッシュ特有の全方位にガンをつけているような顔の動かし方ですぐに「あ、変わった」と分かるのである。


「元気か? アッシュ」


「元気なわけねぇだろ、死んでんだからよ。でもま、こっちも割かし面白くなってきたぜ」


 おや、何とも気になる話だ。あちらの世界にもアッシュが面白がれるような物があるらしい。


「面白く……って、あの世で何が起きてんだ?」


「あー……いや、先そっち話せよ。用があんだろ? お前らと話せる時間ってけっこう短かったはずだし」


 確かにそうだな。

 アッシュにしては気が利いている。


 これまでの経緯をざっと説明する。


 教国エドナに着いたこと。


 リスルッタ大聖堂で教皇に面会を願ったこと。


 理由不明の上いつ会えるか分からないこと。


 とりあえず待つ事にしたこと。


 ここまで説明すると案の定な反応が返ってきた。


「ハァ~!? おいおいヴィゴ、お前のコソコソ術で忍び込んできてパパッと教皇みつけてくりゃ済む話じゃねえかよ」


「よく考えろ。不法侵入して蘇生して下さいって印象が悪すぎるだろう。どんな人かも分かってないんだからな」


「かぁ~! ちょっと見てねえ間にお前も変わっちまったな! 前はもっと手段選ばすやってたぜ?」


「そんなわけないだろ……手段って他に方法でもあるのか?」


「カンタンだぜ。お前が忍び込むだろ? 教皇見つけるだろ? んで背後を取るだろ? そしたら脅せ! アッシュを生き返らせろ! 出来なければ殺す……! ってな」


「ちょっと会わない間に俺へのイメージ激変してない!? ……それでもし教皇が出来ないから殺せって言ってきたらどうすんだよ」


「それはもう、ヤるしかねぇわな」


 こわっ。お前のイメージの中の俺、こっわ。


 何も悪くない教皇が何の意味もなく死んじゃったじゃないか。


 アッシュ節が炸裂し過ぎていて少し疲れてきたのでカトレアに代わってもらう。


「アッシュくん。ともかくもう少し待っていてください。上手く出来ないか色々と考えてみますから」


「おう、任すわ。ソッコーで頼むぜ?」


「ところでさっきアッシュくんが言っていた、こっちも割かし面白くなってきた、というのは何だったんです?」


 おお、そうだった。すっかり頭から飛んでいた。


「あ~アレなぁ、えー……お前らに分かるように話すとだな……

 こっちの世界にも色々とルールがあるんだが、

 死んでから数日はそっちの世界が見える入口でウロウロしてOKでな、

 死んで間もない奴はほとんどの奴がこっちからそっちを覗いて、

 残してきた奴がどうなったかな~とか見るわけよ」


 面白い。

 そんな感じなのか、あの世ってのは。


「俺も死んでからしばらくお前らのこと見てたんだよ。

 でも見てるだけだからな、詳しくなにやってんのかは分かんないわけ、

 だからお前らが俺を生き返らせるって言った時は驚いたぜ。

 そう、死ぬほど驚いたわけ、これってあの世ジョークな。

 こっちの奴らさ、めっちゃあの世ジョーク言うんだよ。うぜーだろ?」


 死ぬほどお腹すいたわ~、まあ俺、死んでんだけどね! 

 みたいな感じか。そりゃけっこう鬱陶しいな。


「ヨッシャ生き返れるぜ! 

 と思ったから入口の近くでずーっと待機してたんだけどさ、

 そしたら天使がやってきて俺のこと連れてこうとしたわけよ。

 お前はもう次のとこ行かないとダメだろ! ってな。

 だからウルセー! 俺は生き返るんじゃい! って言ってシバき返した」


 お前、あの世でも喧嘩してんのか。天使を殴るなよ。


「そういうのが何日も続いてさ、

 いい加減しつこくてムカついてきたからボコボコにしてやったら、

 もう許さん! 今度は上級天使を連れてくるからな! 

 って警告されたとこ。たぶん今日あたり来んだろうな」


 大ごとになってやがる……。

 アッシュって本当にいつでもどこでも戦ってんだな。


「その、大丈夫なんですか? 上級天使って……」


「さぁな。 まー連行されないように頑張るしかねーだろ。って感じでお前らもなるべくソッコーで俺を生き返らせてくれ、頼むわ!」


 んじゃ、また来るからよ! 

 ぐらいの軽さでアッシュの雰囲気がティントアから抜けた。


「変わりませんね、アッシュくん」

 やれやれ、と困り顔で笑うカトレア。

 

 急に消えてしまうのでクロエとフーディが喋れず仕舞いでプリプリと怒っていた。


 目を覚ましたティントアが言う。


「少し急いだ方がいいよね? アッシュならかなり抵抗しそうだけど、連行されちゃったら、もしかして蘇生できないとか、あるかも知れない」

 

 うーむ。あるかも知れないな。


 上級天使を倒したら次は大天使が出てくるのかも知れないし、神様的なものを怒らせてしまったらどうなるかまるで予想がつかない。


「では本格的にアッシュくん蘇生大作戦といきましょうか」


 一同が「おー!」と声を合わせる。


「とりあえず俺はリスルッタ大聖堂に忍び込んでみるか? 教皇を見つけておくだけなら損はないと思う」


「そうですね。ヴィゴくんに居場所を掴んで貰えれば、タイミングを見て接触できるかも知れません。私はとりあえず酒場を回って聞いてみます」


「わたしはイライジャに聞きに行ってみようかな。せっかく冒険者ギルドに知り合いが出来たわけだしね」


 俺が潜入で動けないのでイライジャ達に会うのは面識があるクロエが適任だろう。さっそくツテを使う時が来たな。


 ティントアとフーディはどうしようか。

 カトレアの酒場方面とクロエのギルド方面に振り分けるか?


「俺は、墓地で、霊に聞いてみようか?」

 

 死霊術師って霊と話すことも出来るのか……と思ったら死人のアッシュと話してるんだから同じようなものか。ふと気になって関係のないことを質問してみた。


「なあティントア、アッシュの幽霊もどっかその辺にいるのか?」


「あぁ、なるほどね。アッシュはあの世にいるよ。一応、俺の魔術の定義では、冥界って呼んでる。

 普通は、死んだら魂が冥界にいくんだけど、霊になるにも才能があって、ごく限られた人しか、

 現世で魂だけの姿で留まることは、出来ないんだ。……ちなみに、もしアッシュが霊になれる才能あったら、俺が半分だけ生き返らせることは出来たよ」


 半分だけ生き返る? どういうことか聞き返す。


「死んだら体から魂が離れる。霊ってのは魂だけの姿のこと。

 それで俺は魂を触れる。だからアッシュの霊、つまり魂が現世にあれば、

 それを掴んでアッシュの体に戻せばいい。

 でも、体の機能は死んでるし、傷も回復するわけじゃない、

 アッシュの意思で動く体の死んだアッシュが出来る。

 だから半分だけ……って感じ。成長しないし老いもしない、

 俺が防腐処理するから、腐りもしない。

 俺の魔術理論上だと、魔力供給してあげたら永遠に生きるはず」


 凄いな。正直ゾッとする。


 ティントアの扱える死霊術とは何でもありなのだろうか。


 俺が内心でビビっているとフーディがこう言った。


「あたしが死んだ時に霊の才能あったらさ、半分だけ生き返らせるやつやっていいよ!」


「……え、いいの?」

 ティントアも少し困惑気味な顔をして聞いていた。


「うん! 皆と居たいもん!」

 

 少女の中に一筋の光を見た。

 まばゆい光の粒が溢れるように温かい言葉だ。


 そういう考え方もある、か。

 なんともフーディらしい答えの導き方だ。


 でも、とティントアが優しい声で反論した。


「もしフーディが死んだら、今回のアッシュを生き返らせるみたいに、半分じゃなくて全部、生き返らせると思うよ」


「あ~、そうだった! 別に半分じゃなくていいのか!」

 

 忘れてたよ~! と何だか和む雰囲気で笑うフーディだったが、俺は、何だか少し感動していた。この子が思う仲間への気持ち、思いの強さ、純真無垢の言葉に胸を打たれる気分だった。


 もし俺にも霊の才能とやらがあったらどうだろうか?

 意思を持つ生ける屍となることを望むだろうか。


 その時にならなければ分からないことだろうが、今はまだ、この輪の中に居続けたい。しんみりとそんな事を思ったのだった。


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