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54話 ~2章~ 冒険者ギルドで賭けられるクロエ

 自由行動の一日目。


 宿から出て魔術師組の三人と別れる。


「それでは、夕方にまた宿で会いましょう」

 カトレアはいつも通りきちっとした声と柔和な顔で言った。


「いってき、ます……」

 ティントアが寝癖をつけたままあくびを嚙み殺す。


 昨日は遅くまで何か考え事をしていたようで、たぶんフーディの魔術関連のことだろう。


「ヴィゴ隊長! あたし! 立派な炎術師になって戻って参ります!」

 フーディはビシッと敬礼している。


 いつの間に俺は隊長になったのだろうか。

 そういうごっこ遊びの気分の日なのかな。


「うむ、フーディ隊員。期待しておるぞ。無事に戻ってきたまえ!」

 ちゃんと付き合ってあげると更にやる気が出たのか、フーン! と鼻息を出していた。


 むん、とフーディが拳を突き出す。

 人差し指には指輪がはまっており、傷一つない銀の色が陽光を受けてキラリと輝く。


 俺も左手を出す。

 左手の薬指が俺の指輪のはまる場所だ。


 利き手の右は精密なことを行う時に動きを阻害されそうで、とりあえず左の邪魔にならなさそうな指にしたのだ。


 我がパーティの挨拶を返す。


 拳と拳で指輪を合わせ、キン! と音を立てるのが我が六王連合の挨拶である。


 これをやろうと言い出すとは、今日のフーディは相当に気合が入っている、本気だな。


 意気揚々と通りを進んでいく三人を見送り、さて今日の俺は何をしようか。


「それじゃあヴィゴ、わたしたちも部屋に戻ってしっぽりやろうぜ!」


 おま……よくもそんな色情まみれの顔しながらパーティの挨拶が出来たな。


 ぐっと突き出された拳の指輪が心なしか怪しく光っているような気さえする。

 

「アホ、まだ朝だぞ。もっと建設的なことを言いなさい」


「え、昼からならいいの? あと結果によっては建設的と言えなくもないよ? その結果をおめでたいと言う人もいるくらいだしね!」


「お昼からならいいですよ、の意味で言っとらんわ、後半はちょっともう触れないでおくね」


「ハァ……今日は夜だけか。分かったよ、我慢するよ……」


「俺とかけ離れたクロエの記憶が怖いよ」


「わたしの頭の中ではそれはもうヴィゴは朝も昼も晩もぐちゃぐちゃのどろどろの……」


 三食しっかりメシ食うみたいに!? 

 そして俺がされてる方なの!? 


 昨日のクロエを返してくれ、何なんだ、今日はえらいこと絶好調じゃないか。


「……じゃ……今日は、まぁ、お互い別行動で……」


「ごめんなさい! そろそろ控えるから! ちゃんと言うこと聞くから! だから一緒にいて! 一人にしないで! 悪いところ全部治すから! だから捨てないで!」


「分かった、分かったから! ちょっと外の通りでやるレベルの声量じゃないからやめような。台詞だけ聞くと俺が物凄いクズな男にしか聞こえないからな、もう視線が凄いもん。ほら、部屋もどるぞ!」


 人目を避けたくてグイと腕を強めに引いて宿に戻ったが、女の弱みに付け込んで上手いこと部屋に連れ込んだクズにしか見えない絵面だったな、と今にして思った。


 というわけで部屋に戻って真面目に何をしようかと二人で考えた結果。


 今日の俺たちは冒険者ギルドへ行ってみることにしたのだった。


 商人連国の冒険者ギルドにはティントア、カトレア、フーディ達が一度行っている。

 そこで【六王連合】の名が決まったのだ。


 教国エドナで今度は代わりばんこみたいに、俺とクロエだけが足を運ぶとはちょっと面白い話だ。


 通りすがりの人に道を聞いてギルドの建物が集まっているところを聞く。


 商人ギルドや鍛冶師ギルド等もその区画に入っているらしい。


 お目当ての冒険者ギルドは船をひっくり返した見た目だからすぐ分かるよ、と言っていた。


 船をひっくり返した見た目と言われても……と思って頭の中で転覆させてみたがいまいち想像しにくい。そう思っていたら頭の中の物が形を得たように、本当にそのまま船がひっくり返っていた。


 巨大な帆船が三隻、横並びでくっついて建物になっている。


 柱や金属板で要所を補強はしているが、誰がどう見たってひっくり返った船である。これが冒険者ギルドの建物か。この船なら一隻で五百人は乗るだろうから、収容人数にして一五〇〇人くらいか、ギルドってけっこう凄い組織なんだな。


 中に入るとさすがに一五〇〇人がぎちぎちに詰まっているようなことはなかったが、それでも人は多い。


 街にある空気と比べて濃かった。酒や、汗の匂い、剣を手入れする油の匂い。人いきれもあるし、併設された酒場では大鍋を振るっているので食事の匂いも混じっている。これが冒険者の匂いか。


「もしかしてワクワクしてる?」


 少し悪戯な顔でクロエが聞いてくる。


「ああ、少しだけな」


「もう、素直じゃないね~。ほら、見て回ろうよ!」


 今度はクロエが俺の手を引く。


 別に引っ張って貰わなくてもしっかり見る気満々だったのだが、たぶんクロエが手を繋ぎたかっただけだろうな。


 依頼の張り出された看板と受注するためのカウンター、その向こうにはギルド職員。


 建物の中央付近は長机と長椅子がずらりと並び、次の仕事に向けて打合せをする者、依頼達成のお祝いをする者、腕相撲で盛り上がる者など様々だった。


 いいねえ!

 何だか筋肉をつけてヒゲを生やしたくなる。


 冒険必需品の販売所、武器防具の調整をする金床、薬の調合台なども一式揃っている。

 まるで小さな街だ。


 ほとんど男ばかりだろうと思っていたギルドだが意外なことに女もチラホラ居る。


 カウンターで受付をするギルド職員に女が多いのは分かるが、それを抜いてざっとギルドを見渡しても男女差は8:2くらいだろうか。


 まあ別に肉体労働ばかりが冒険者の仕事というわけでもない。

 薬学に詳しい人なら森で薬草を摘んで売る仕事も選べるわけだしな。


「ねーヴィゴ、なんか食べようよ。もうお昼前だしさ、ご飯食べながら何の依頼やるか決めよ~」


「え、依頼……受けていいのか?」


「うん? ありゃ、違った?」


「いや違わない。やってみたいなーと思ってたんだが、クロエが興味あるとは思わなくて」


「実はあんまり興味ないよ。ヴィゴがやりたそうだったから、いや違うな……ヴィゴがヤリたそうな目でこっち見てたから、好きにサセてあげようかなって」


「ありがとう。後半の不穏なやつは聞き流してやる」


「それじゃご飯ご飯~」とクロエに引っ張られて行く途中でイイ感じの台詞が投げつけられた。


「見ねえ顔だな」

「女連れかよ」

「チャラチャラしやがって」

「見ろよ、すげえ美人だ」

「女に引っ張られてギルド見学とはな」

「駆け出しだろ? 放っておけよ」

「いやいや、新人教育ってやつさ」


 あぁ~ありがとう! そういうのだよなぁ! 

 お前らどう見たって荒くれだもんな! そういうの欲しかったんだよ!

 

 筋骨隆々、太い腕、濃いヒゲ、上裸でムキムキの黒光りするような大男が俺の向こうの席、つまりクロエの隣にドカリと座る。


「よお、兄ちゃん。イイ女つれてるなあ」


「いいだろ? 俺の女だ。あげないよ?」


 思わぬ不意打ちにクロエがかつてない喜色満面な悶え方をしている。

 ごめんなクロエ、だしに使っちゃって。後でハグしてやるからな。


 俺の強気な発言に少し面食らったのか、上裸の男は片方の眉を吊り上げた。


「ここいらじゃ見ねえ顔だが、駆け出しかい?」


「ああ、まだ依頼を受けたこともないくらいだ」


 男が豪快に笑う。

 仲間の奴らも寄ってきて俺たちを取り囲むように陣取った。


「駆け出しどころか生まれたてのヒヨコちゃんじゃねえかよ。それにしちゃ随分と態度がでかくないか?」


 ここでひと睨みを効かせてくる。ほう、なかなか鋭い眼光だ。


 上裸の男を百人集め、せーので目をかっ開けば、ようやくアッシュ一人分くらいにはなるだろう。


「それで? こんな大勢でやって来て何か用?」


 男は待ってましたと言わんばかりに肘をテーブルに突き立てる。


「お近づきの印によ、腕相撲で勝負といこうや」


 いいだろう。

 俺もシャツの袖をまくって肘をつく。


 鍛えられた腕の筋肉は我ながら見事な物だが、目の前の男の方がもっと太かった。


「なあ兄ちゃん。ただ腕相撲なんかしたって面白くねえや。なんか賭けようぜ」


「いいよ。乗った」


「ようし、それじゃあ俺が買ったらこの女を一晩貸してくれや。そんなに自信満々なんだからよ、まさか逃げるとは言わねえよな?」


「ああ、それでいい」


「ちょおお!! ヴィゴなに言ってんの!!??」


「うるさっ……だいじょぶ大丈夫、負けるわけないだろ」


「えええ!? よく見てよ! この人の腕ヴィゴの倍くらい太いじゃん! 腕相撲は無理あるって!」


「なぁぁっ! もーうるさいな! こんなのに俺が負けるわけないだろ。寝てても勝てるって!」


「じゃあヴィゴが勝ったら今日の夜はわたしがヴィゴのこと好きにするからね!?」


「なんで腕相撲しないクロエが勝利者の権利を履行できるんだよ」


「じゃあ何で勝負に乗ってないわたしが賭けの対象なの?」


 ……確かに!

 うむ、一切の反論が出来なくなってしまった。


「あの、というわけでクロエのことは諦めてくれ。本人の許可が下りませんでした。有り金を全部賭けるからそれでいいか?」


 いいわけねえだろ、調子乗んな、てめえみたいな新人がいくら持ってんだ。クロエちゃん好きです! ふざけんじゃねえぞ、舐めやがってこのガキ……と散々な言われようだ。約一名こっそり告白してる奴までいる。


 俺はベルトから財布を外して中身を全部テーブルにぶちまけた。


 白金貨(はくきんか)一枚と金貨が数枚、銀貨も銅貨もジャラジャラある。


 ちなみにゴルドルピー王家の出しているルチュラ三世の白金貨が一枚あれば半年は遊んで暮らせるのだ。


「こんだけあれば文句ないだろ?」


 一介の冒険者がおいそれと持ち歩く金額ではない。


 俺たちを取り囲む奴らが目の色変えてギラギラした表情になっている。


「……ああ、ああ! それでいいぜ! 俺が勝ったらその金をもらう! それで決まりだ!」


「じゃあ俺が勝ったら何をくれるんだ?」


「何でもやるよ。好きなもんを言いな。子分でも何でもなってやらあ!」


 両者が向かい合い、手を組む。


 この上裸の男、この中じゃ強いんだろうな。見るからに体格もいいし、手を握った時の厚みで大体の強さが分かる。だが、所詮は魔力も感じることが出来ない一般人だ。


「始め!」


 掛け声と共に押してくるが俺はビクともしなかった。


 筋肉の質の違いもあるが、俺の体の中には魔力が流れている。魔術師のように火や水を出せたりはしないが、体の中の魔力は血と肉と骨を駆け巡り、身体能力を爆発的に向上させるのだ。


 ドン、と鈍い音がして相手の手の甲がテーブルに突いた。


 俺の勝ちである。


 上裸の男は愕然とした顔をして両手で頭を抱えている。


 ムキムキの体なので筋肉を見せつけられているようだ。


 今日からコイツが俺の子分か。悪くない!


「イライジャが負けるなんて……」


 ほお、俺の子分の名前はイライジャと言うのか。


「……おい、小僧……!」

 

 どうした? 子分のイライジャよ。


「もう一回だ!」


 おいおい、男の勝負は一本と相場が決まっているものだ。見苦しいぞ。


「今度は腕相撲じゃねえ! 喧嘩だ! 殴り合いだコノ野郎!」


 そう言う事なら、とイライジャの首を掴んで持ち上げる。

 そして広場に放り投げた。


「おいおい、なんて口の利き方してんだ。俺はお前の親分だろ?」


 信じられないといった顔でイライジャとその仲間たちが俺を見ている。


「別に喧嘩でも何でもしてやるけどさ、お前が子分になってもいいって言ったんだぞ? ダダをこねるなよ」


 イライジャは険しい顔をして拳を構えた。


 さすがに今ので力量差を思い知ったのか青い顔もしている。


「イライジャ一人にやらすのか? 仲間なんだろ?」


 周囲をぐるりと見渡し、一人一人に目を合わせた。


「全員相手にしてやるからかかって来い。それともしっぽ巻いて逃げるか?

 大の男が五人も揃って、そんな情けないことしないよな? 絡んできたのはお前らだったろ? 

 ここまで馬鹿にされてケツまくったら冒険者稼業も出来なくなるんじゃないのか? ほらほら! かかってこいよ!」


 ここまで煽っておけば逃げないだろう。


 冒険者の仕事はまだやったことがないが、荒くれ共にとっては臆病者の謂れを受けることが何より稼業の邪魔になるはずだ。


 やったるわこのクソガキが~! と大声が響く。


 そして数秒後に五人が床で倒れてのびた。


 これでイライジャ含めて子分が六人になったな。

 ちょうど六王連合の人数と一致する。


 俺一人で六人も面倒は見れないし皆に一人ずつ配ろうかな。


 ……いや、今の五人は別に何も賭けてないんだったか。残念だ。


「イライジャ、のびてる奴らを介抱してやれ。通りの邪魔になる」


 まさか喧嘩だと言い出したイライジャが起きていて後で参加した五人の方が先にのびるとはな。

 物事の展開というのは面白いものである。


 言いだしっぺのイライジャも頭が冷えたのか続きを申し出ることはなかった。


「……あの、親分。とりあえず名前を聞いていいですかい?」


 ああ、まだ名乗ってなかったか。


「俺はヴィゴ、こっちはクロエだ」


「……へい! よろしくお願いしやす。ヴィゴの親分はめちゃくちゃお強いんスね。あのう、やっぱり有名な上級冒険者だったりするんですかい?」


「いや、Dランクの中級だ。さっきも言ったがまだギルドで依頼を受けたことは無いよ」


 じゃあ何でDランクなの? という顔をイライジャがしていたので説明する。


 冒険者ギルドのランクはS~Gまでの八段階でランクが設けられている。


 Sは最上級、ABは上級、CDEは中級、FGは下級だ。


 六王連合もスタートは当然、最下位ランクのGだった。


 だが、再屋(ふたたや)ロジェの悪行を暴き、商人連国の危機を未然に救ったことが評価され3ランクアップで一気に飛んでDランクの中級冒険者となったのである。


 3ランクアップは滅多にないことだそうだ。


 しかも依頼すらまだ受けていない超新米が成し遂げたのは史上初だとか。


 しかしだ。

 よくよく考えると王家の危機を未然に防いで3ランクアップってケチ臭くないだろうか?


 まあ、出身が一切不明の謎に包まれた奴らを上級ランクに上げるのが危険という理由もあるのだろうな。


「それで、イライジャたちは何て名前でパーティ組んでんだ?」


「俺らは、ビット村落愚連隊(そんらくぐれんたい)って名乗ってます」


「へえ、ビット村ってところが出身か?」


「へい、そうです。小さな田舎村だもんで聞いたこともねぇと思いやすが」


 俺らが知ってるのなんて商人連国と教国くらいのもんだ。


 あとは第三自由都市サドンくらいか。


「ビット村落愚連隊(そんらくぐれんたい)のランクは?」


「Cランクです。すいやせん! 子分の分際で!」


 別にそんなことを謝らんでもいいさ。

 だがCランクか。


 八段階もある中で上から数えた方が早いCランクとは中々凄いんじゃないだろうか?


 中級の上位、上級の手前なら経験も豊富そうだ。


「実は俺たち遠方からやってきたばかりでこの辺の事情に疎いんだ。冒険者ギルドの事とか色々聞いてもいいか?」


「へい! 何なりと!」

 

 よしよし、子分の姿勢が板についてきたじゃないか。


 それではイライジャからあれこれ聞いて情報収集といこうか。

 

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