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39話 逆襲の王

 体中に覚えた負の感覚が急に消え去る。


 まるで痛くない。体が動く。

 焦点の合わない世界が徐々に定まり、ぼやけた音に輪郭があることが分かってくる。


 途絶した意識は大声によって引き戻された。


「起きろ! ヴィゴ!」


 アッシュ? アッシュが居る。


 俺の目の前に、怒りながら心配するような顔で俺を見ている。


 俺はどうなったんだったか。急速に体が軽くなっていくのが分かった。


「おいティントア! ほんとに効いてんのかよ! この薬は!」


 薬? そうか、霊薬。


 俺はフーディを庇って死体の爆弾に直撃し、倒れ、薬を飲まされて回復したらしい。


 頭の中で順を追えるくらいには思考能力も回復してきている。無理やりにでも立ち上がった。


「ヴィゴ! まだダメだ! 霊薬は傷を治しても、失った血まで戻ってこない!」


 ティントアが体を押さえようとしたが俺は払いのけた。

 もはやそんな状況ではない。


「……フーディが連れ去られた。追うぞ! 来い!」


 それだけ伝えて俺は駆け出す。体はもう十分だ。


 無くなった血の代わりに強い感情が体を突き動かす。


 アッシュは俺のすぐ後ろで駆けていた。

 奥歯を噛みしめるゴリゴリという音が聞こえてくる。


「ヴィゴ! あのクソ野郎がどこ行ったか分かんのか!?」


「屋敷だ!」


 確信がある。

 気を失う前に辛うじて聞き取れたあの寒気がする台詞。


 そしてなにより、死の淵から舞い戻ったせいなの知らないが、感覚が鋭くなっていた。怨敵は自らの住処で俺たちを待ち受けている。それが分かった。


 アッシュが後ろに叫んで伝える。


「ロジェは屋敷だ! 俺らは先に行く!」


 アッシュと共に街を走り抜ける。


 俺たちなら狭い道を行くより上を行ったほうが早い。


 壁を蹴り屋根に乗り、建物を次々と飛び移り続ける。


 俺はどれだけ気を失っていたんだ。


 まだ陽は落ち切っていないのだからそれほど長くはない時間のはずだが……。


 知らず手に力が入っていた。


 ついさっきまで握ることすら出来なかったが、今ならやれる。

 今度は皆でフーディを取り返す。


 二段地区へ登る大階段を駆け上り、最短距離でロジェの屋敷に……見えた。


 屋敷の門は俺たちを待ち受ける十数名の武装集団が居た。


 俺一人にやられたお前たち程度が、アッシュも含めたこちらに勝てる道理はひとつもない。


「どけ! 雑魚ども!」


 鬼気迫る表情で真っすぐに突っ込む。


 怯んだ集団は立て直す間もなく無力化された。


 文字通り蹴散らして門を飛び越え、大広間の扉を蹴破る。


 飛び込んだそこは死の匂いが立ち込める決戦の地だった。


 やはりロジェは俺たちを待ち構えていた。

 ひしめき合う骸骨達たちがぞろりとこちらを向く。


 天井から吊るされたシャンデリアは魔術でもかけられているのか、強い光を放ち部屋の中は真昼の最中のようだった。


 大広間の中央にある、二階へ吹き抜ける階段。


 上の階に黒いローブで揃えた者たちがずらりと並び、その真ん中にロジェが居る。


「来たか、馬鹿どもが。不法侵入に続き、扉も壊してくれるとはな。死をもって償わせてやろう」


 ロジェの一声にアッシュが咆哮するように叫ぶ。


 怒りを通り越した怒りには、なんて言葉があるのだろうか。


「死ぬのはテメーだボケが! 今すぐ叩っ殺してやる」


「まあ待て、これを見ろ」


 指さす方からなにかふわふわと宙を漂って現れた。フーディだ。


 空中で寝るよう横たわっている。


 薄紫の丸い膜のようなものに包まれ顔を歪ませている。


「いま魔力を吸い取っている。この子は今まで見た誰よりも質がいい。良い材料となるだろう。吸い上げたら殺す。それから――」


 屋敷が揺れた。


 ロジェの攻撃かと思ったら違う。


 ロジェ自身も驚いた顔をしているのだ。


 音のする方を見れば壁を突き破って木が伸びてきている。


 カトレアだ。


 俺たちが蹴破った扉の付近が切り裂かれ、大きく口を開ける。

 銀の閃きからクロエだと分かった。


「フン、まったく末恐ろしいやつらだな」


 俺たちは揃った。

 五人が一つの目的のために一点を見つめる。


 空中で捉われた仲間を見る。


 今すぐにも駆け出したいが、目の前に人質をとられているのだ。


 仕掛けてもいいのか、感情が暴発しそうになる。


「安心しろ、この子を殺すまでにはまだ時間がかかる。それまでお前たちと遊んでやる。それが終わったら……俺はこの子と遊ぶよ」


 一度、言葉を区切ってみせたロジェは顔を下向け、肩を揺らして笑い出した。

 上気し、下卑た顔を晒す。


「初めて見た時から、心を奪われたよ。なんて可愛い子なんだと思った。私はな、子供の死体に欲情する性質でね」


 汚らしい欲を見せつけるのが快感だと言わんばかりに声を張り上げてロジェは続ける。


「どうしてただの死体ではなく子供だと思う!? 死姦したことあるか!? ないだろ!? 死んだ人間はどうしても緩むんだよなあ。その点、子供は最高だ! ほら、入れ物が小さいと多少緩んでも具合がいいんだよ! 分かり易い理屈だろう!」


 もう感情は言葉にならない。


 ただただ、ひたすらに殺意を覚えた。


 ふっと狂気を消し、ロジェはうすら笑いの顔に戻る。


「では……戦おうか。私と、私が国中からかき集めた死霊術師たちだ。いつか商人連国を乗っ取るために揃えていた力だ。十年の歳月をかけて集めた力! たっぷり味わえ!」


 アッシュと俺が突っ込む。


 俺たちは五人、相手は死霊術師と骸骨たちを合わせれば百は超えている。


 この骸骨たち、途中の町で相手をした雑魚たちとは比べ物にならないくらい強かった。


 俺の力では一度の攻撃で骨の体を砕ききれない。


 アッシュの一撃でようやく落とせるほどに固い。


 そしてこの敏捷性、武器の扱いは一介の兵士のように練り上げられていた。


「急ぎたまえ! あまり時間をかければ上にいる子が死んでしまうぞ! よく持っても5分がせいぜいだ!」


 時間はかけられない。


 おのずと無理をしたこちらの動きは精度に欠ける。


 そして一体、また一体と仕留めるのに時間がかかり、俺たちの体は僅かばかりに傷つけられていく。


 カトレアの木とクロエの髪で薙ぎ払っても、ばらばらにした体を繋ぎ合わせ、また立ち上がって来るのだ。


 このままでは、とても5分など……。


「……なんだ?」


 骸骨の一人の挙動がおかしかった。一番前に出てきていた骸骨が武器を取り落とす。


「……支配権を、奪った」


 ティントアの静かな声が、やけによく通った。ロジェは眼を見開いている。


「……術の式を……解いたのか? そんなわけが……。いや、まさか……」


「あんたがやった通りだ。無理やりに奪った! ロジェ! お前は必ず殺すぞ!」


「あ、あり得ん……余計にあり得んだろうが! そんな人間、居ようはずが――」


 骸骨が一人、また一人と武器を取り落とす。


 よほど濃い魔力が溢れ出しているのか、力の余波で空間がわずかに歪んでいるのが分かった。その歪みに捕らわれた骸骨から順に立ち止まり、手に持つ得物を放棄していく。


「あり得ん! あり得てたまるか! そのような奴が、そんなやつ居るわけが――」


 そこで一つの答えに辿り着いたかのように、ロジェが放心したように呟く。


「……(むくろ)の王」


 俺たちは攻勢に打って出る。


 ティントアが徐々に敵の自由を奪っていく。


 風船豚の時に言っていた「百倍いける」あれはおそらく真実なのだ。


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