24話 唸れティントア王国
俺たちがギルドへ?
そう聞いた瞬間に皆がわくわくした顔をし始める。
真っ先に声を出したのはフーディだった。
「じゃあパーティの名前は【フーディ女王にご馳走を振るまうんだ団】にしよ!」
「アホか!【集えツワモノ! 最強の王アッシュの元へ連合】だろうが!」
お前ら真面目に……。
いや、たぶんこの二人は大真面目に言っているんだろうが――
「じゃあ~わたしは【クロエ女王のお抱えイケメン集団】がいい」
ほらふざけ出した!
「え、じゃあ私は【カトレア女王の庭園部隊】がいいですね」
待てカトレア、なんでお前までそんな大喜利みたいなこと言い出しているんだ?
「【唸れティントア王国】」
唸った! そして凄くシンプル!
「ヴィゴは?」
全員の視線が刺さる。一旦、軌道修正だ。落ち着いてくれ。
「とりあえず六人王様隊とかでいいんじゃないか? それより何をやるか――」
「ヴィゴ、おまえソレ、くそダセーぞ。何ボケてんだ?」
アッシュ、お前に言われるとブン殴りたくなるよ。
結局、パーティ名は決まらず一旦保留となる。
ようやく話が戻ってきてギルドの目的をどうするかだが……。
これがまた混沌を極める話し合いだった。
美食が、強敵が、男を、植物を、ティントアだけ意味不明だがクッキーがどうのこうの言っていた。
もうこれ何の話し合いだ。
アッシュの声が一番大きく、最強だのなんだの言っていたから隣のテーブルの冒険者らしい男が声をかけてきた。
「赤髪の兄ちゃんよお、強いやつに会いたいのかい?」
「あん? おう、知ってんのか?」
「知ってる知ってる。俺が思うにアイツが一番強いだろうなあ」
「俺か?」
男が笑う。
天然っぷりに実は俺も笑った。
「確かに兄ちゃんも強そうだが、俺はヴィクトールの方が強いと思うね」
男はそのヴィクトールとやらを説明してくれた。
商人連国ゴルドルピ―の王都に剣術道場を開いている者がいる。
名は【ヴィクトール・アインホルン】
男が言うには商人連国一の剣士だそうだ。
国一番、その言葉を聞いてアッシュが黙っていられるはずもない。
見ればコイツの目の中は既に火花が散っていた。
臨戦態勢に入った時のアッシュの顔だ。
「ふーん……。誰が一番強いのか教えてやる必要があるな」
「ちょっと! アッシュが勝手に決めようとしてる! 目的!」
フーディがふんふん怒りながら噛みつく。
「落ち着けガキンチョ。これは別に俺の個人的なやつでいい。全員の目的は別のモンでいいぜ。だが進路は王都だ、それは譲れねぇ」
都か。
アッシュの目的は勝手にしてもらっていいが、ひとまず進む先が王都なのは悪くない。
この国で一番の街なら情報も仕事も豊富だろう。
カトレアを見ると目が合った。まあ同じだろう。
「いいですね王都。色んなものがありそうですし、たくさん触れてから目的を決めてもいいと思います。アッシュくんが国一番の剣士と比較してどれほど強いのかも気になりますしね」
「馬鹿め、最強は俺だ。この世に生れ落ちてすぐ世界が知ったんだよ」
そうか、俺は知らなかった。
「えー、ホントに行くの?」
明確な反対意見はフーディだけか。
理由を聞いてみたら「なーんかヤダ」とのこと。
大方アッシュが言い出したので何となく反対してみたいだけだろう。
さあ、丸め込めカトレア。
「ねえフーディちゃん。王都はこの商人連国で一番大きな街ですよ? きっと美味しい物がたくさんあるんでしょうね。あー、楽しみだなぁ……。良かったら一緒に美味しいケーキのお店を探してくれませんか? ね、お願いしますよ」
よしよし、これでいいだろう。
あぁ、もうヨダレ垂れてんじゃないかフーディ。
「え~……王都、城下町……ケーキ? ハチミツの飴もあるかな?」
「絶対ありますよ。お願いしますよフーディちゃん。一緒に美味しいもの探しましょう?」
「も~! カトレアってホント食いしん坊だなぁ」
「そうなんです。私、食いしん坊なんです! ですから、ね? フーディちゃん」
「んー……、じゃあカトレアが言うから行こっかなー……」
「ありがとうございますフーディちゃん。いっぱい食べましょうね」
ということで六人は王都へ向かうこととなったのだった。
――
――――。
ということで商人連国ゴルドルピーの首都を目指して俺たちは歩いていた。
調べたところと人伝の話では緩い徒歩で二日、俺たちならたぶん一日で着けるくらいだ。
それほどの距離でもないので馬車を雇うこともしなかった。常人なら第三自由都市サドンを朝に発ち、昼の遅い時間には中継地点の小さな町で一泊する。そして次の日に城下へたどり着くというのが一般的だ。
フーディの体力次第というところもあるが、俺の感覚では昼前くらいに中継地点の町へ着くと見ていた。
よく整備された街道を行けばちらほら人とすれ違う。俺たちが餓えて死ぬ寸前までいったダフネス公国付近の街道では道行く人を一人として見なかったのであの辺りはやはり人が寄り付かないのだろう。
往来があれば安心安全、今日もよく晴れた空は旅日和の青空を頭上に見せてくれていた。
「旅はこうでなくちゃな……」
俺はひとつ伸びをして清々しい気持ちで深呼吸した。
水、食料、替えの衣服、その他諸々。
今はきちんとした準備が背負い袋に詰まっている。
草原の緑の匂いと、葉を揺らす風のことだけを考えていられるのは穏やかで良い。
「平和だねー」
フーディが棒付きのハチミツ飴を口に入れながら喋る。
「前の時はホントにしんどかったもんね」
「誰かさんを背負うはめになったからマジでしんどかったぜ?」
おいおいアッシュ、あんまり意地悪を……。
二人の喧嘩風景を予想していたが、今回は違った。
フーディはにやにやしながら言う。
「へぇ~。アッシュってば、しんどかったんだ? ヴィゴは全然大丈夫って言ってたよ?」
いや、めちゃくちゃしんどかったよ。
まあフーディにそんなことをわざわざ聞かせるつもりはない。
それはともかく、その手の煽り方は効果てきめんだろうな。
「ハァ!? 嘘に決まってんだろ! 背負わせろコラ!!」
「え? 別に今はおんぶしてくれなっ――」
アッシュが半ば強制的にフーディを背負い、宣言する。
「これからテメーを町に着くまで、おぶりつづける。俺は暴れ馬だぜ」
そしてアッシュはフーディを背負ったまま走りまくった。
縦横無尽にほとんど無駄に、行ったり来たり、背負われる方も大変だろうと思うが、フーディはきゃあきゃあ言って笑っているので大丈夫か。
その光景が始まってからクロエが俺をちらちら見るのだ。
気付かないフリをしていたがついに声をかけられる。
「ねえヴィゴ。お、おんぶして?」
恥ずかしいなら言うんじゃないよ。
欲望には勝てないのが実にクロエらしい。
「いいけど、変なことしたらすぐ降ろすぞ?」
「くっ……卑怯な!」
ハイハイと生返事を返して、欲望の獣を背中に負う。
その気はないんだろうが出るとこがよく出ているので柔らかい感触があった。
役得だな。俺は何も朴念仁ではない。
接触を喜ぶくらいのごく普通の感性があるし、そしてそれを開けっ広げにしないだけだ。
背中の大荷物さんは珍しく大人しい。
気分も良さそうに時おり鼻歌が聞こえる。
いつもそれくらい落ち着いていてくれたらいいんだがな。
こちらの様子を見ていたティントアが唐突にしゃがみ込んだ。
「カトレア、来て」
どうやら今度はカトレアの番らしい。
「私ですか? そんな、悪いですよ。ティントアくんが疲れてしまったら大変ですよ」
「俺は、ヴィゴとアッシュより体力がない。だからこそ背負うべき」
要は筋トレだと言いたいのだろうか。
カトレアは迷っていたが、ティントアがしゃがんだまま動かないので従うことにした。
なんだろうな、この旅の風景は。
なんで俺たちはこんな面白い恰好で歩いているんだろうな。
外から見た自分たちの姿を想像して少し笑ってしまった。




