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六王連合  作者: 帯刀 撫臼
1章
13/145

13話 街と豚と食事

 街、街だ!


 あそこまで行けばもう大丈夫だ。食べる物、寝るところ。新しい服も欲しいし、今後についてじっくり話せる。動かない体を気力で突き動かす。


 六人とも逸る気持ちのまま足を動かしたはずだが、それでも俺たちが街へ着く頃には、日はほとんど落ちかけていた。


 警備の衛兵が門を閉めるぎりぎりのところに俺たちは駆けこんでいく。

「うお! なんだお前ら! 大丈夫なのか!? ひでえ状態だな!」


 全員が疲れ切っており誰も喋り出さない。仕方なく俺が答える。


「とりあえず、生きてはいます、ぎりぎり」


「なんかあったのか? 野盗か? 狼か? 荷物捨てて逃げてきたんだろ?」


 ……何を答えておけばいいか。古代の王なんですけど蘇生しましたというわけにもいかない。

 適当に調子を合わせておく。


「まあ、そんなところです。街には入れますか?」


「ああ、入れるよ。君ら、この街の人間じゃないんだな?」


 今の俺の回答でそれだけの当たりがつけられるのか。


 おそらくは「街に入れるか」と聞いた点だろう。


「ここが自由都市で良かったな、あんたらのその惨状じゃ、よその街なら色々聞かれてすぐには中に入れないとこだ、それで何があったわけ?」


「すみませんが、いますぐ何か口にして休まないとぶっ倒れそうなんです。行ってもいいですか?」


「あーそうだよな、悪い悪い。じゃあ暇なら後で話でも聞かせてくれよ」


 お喋り好きなのか暇なのか。衛兵は物足りなさそうだったが大した問題もなく俺たちを通してくれた。


 自由都市だから俺たちは入れたのか。自由都市……。

 街の運営形態に関わる形式なのだろうが……。


 いや、もう頭が回らない。


「衛兵さん、ここから一番近い泊まれる場所はどこですか?」


 目抜き通りを直進すればあると教えてくれた。樽に乗った豚の大看板があるからすぐ分かるのだそうだ。


 店の名は【樽乗り豚(たるのりぶた)】亭という。


 確かにすぐ店は見つかった。店構えに目をやる暇すら惜しい、すぐ扉を開けて中に入る。


 店員らしい女の子がこちらに気づいて駆け寄ってきた。


「いら……。いらっしゃいませ! 樽乗り豚へようこそブーブー! ……お泊りで、いや、あの、少々お待ちくださいブー」


 俺たちのあまりの汚い姿に面食らったらしい。

 店主に掛け合うようで奥に引っ込んでしまった。


 店名が【樽乗り豚】なので語尾にブーとつけるのがこの店の決まりなのだろうか。


 しばらくして大柄の女店主がのそりのそりとやってきた。


「アンタら、金持ってんのかい? うちは一泊で朝晩食事つきの銅貨五枚だ。それを六人分だ、あんたらのせいで床が汚れたから、それの手間賃込みで銅貨を二枚多くもらうが、払えるのかい?」


 相場がまるで分からない。そして俺たちに払える金なんてなかった。それぞれが値のつきそうな物をかき集めても指輪が六つと黒い短剣が関の山だった。


「いいやダメだ。それじゃ首は縦に振れないね。そのナイフは高そうな気もするが、私に武器なんぞの値段は分からないからねえ」


 女主人は手を丸めて口に当て少し考える素振りをする。

 見た目の雰囲気からすぐ突っぱねられるかと思ったが、なにか勘定しているらしい。


「ここで一か月働くのはどうだい? その間の寝る場所と飯は用意してやるよ、給料は出ないがね」

 そちらの方が利益になると踏んだようだ。


 俺たちは大して相談する間もなく承知した。

 とにかく何か食べたい。そして休みたい。


「よしきた。それじゃあんたら外の水場で体洗ってきな。服も用意してやる。フレヤ、案内したげな。ジェシカは奥の部屋に飯の用意をしな」


 言いつけるとすぐ奥へ引っ込んでいく女主人。

 なんとなく敏腕経営者のように見える。


 フレヤと呼ばれていた店員が店のすぐ脇にある水場へ誘導してくれた。


 真水を頭からかぶって石鹸で全身を洗っていく。

 六人全員が素っ裸で至近距離なのだが誰も何も恥じらうことはなかった。


 もはや精神が通常の領域から大きく外れている。ただ汚れを落とせることだけに喜んだ。


「うわぁ……あんたら、なんか極限だね」

 フレヤが話しかけてくるが構っていられなかった。


 全身を洗ってごわごわしたタオルを体に巻いて裏口から改めて店の中に入る。

 厨房を抜けて女主人が言っていた奥の部屋というところに通された。


 テーブルには、食事が並んでいた。見た瞬間に俺たちは獣も同然だった。


 食べる、いや、もう喰らうというべきか。

 パンとシチュー、串焼きの肉。

 こんなに美味い物がこの世にあるのかと思った。


 食べながらあらゆることに感謝したくなった。パンに齧りつく。串焼きの肉へ食らいつく。スプーンなんてまどろっこしい物は使わずに器へ口をつけてシチューを飲む。


「うっ……うぅ」


 あまりの美味しさに感動したのか、助かった安堵がそうさせたか、フーディは涙を浮かべながらパンを頬張っていた。その様子を見ていたカトレアも釣られて泣いている。


「美味い」か「ヤバイ」か「美味しい」


 六人がずっとその言葉だけを連呼しながら食事をする様は奇妙で異常だったと思う。


 食ったらすぐ寝た。

 その間、フレヤは何か言っていたと思うが、六人の誰も何も返事する余裕はなかった。


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