127話 ~4章~ いざ迷宮、地底の覇権
一枚岩のサイズ感のせいで感覚がおかしくなるが、巨人のための鉄扉なのか、というような大きな両開きのドアを抜けて地下に降りる。
迷宮探索で賑わっていた頃、ここは大勢の人が出入りしたはずだ。
だから何十人も同時に通れるようにデカいんだろうな。
鉄板で舗装された幅の広い階段を下る。
ここが迷宮の第一層か。
事前に聞いていた話では、地下一層と二層は街になっているらしい。
確かにここは、街の下にある街と言っていい。
高い天井は空の色こそしていないが大空洞が広がっており、壁の高いところまで灯りが設置され何とも神秘的だ。
広く明るく、夜目が効かずとも申し分なく視界が利く。
そして建物。何と地下にしっかりとした建物が広がっているのだ。
部材を持ち込んで組み立てたのだろうが、さすが300年も歴史があれば一端の建築物が立ち並んでいる。一階建ての家が勿論、見張り台のような背の高い物まである。
この地下で一体なんの物見が必要なのかは知らないが、無いより有るほうがいいだろう。
だって何だかワクワクするもの。
さて、ちょっと気を引き締めるような話もある。
地上と比べ、地下は治安が悪い。
地下二層ともなれば街の荒くれでもそうそう気軽に降りないような物騒なところもあるそうだ。
……という話をアッシュにしてみせると目をキラキラさせている。
「いいねぇ。なんかアジトって感じでグッと来るわぁ~」
「アジトって言えば、盗賊ギルドが地下で結成された……とかいう噂もあったよな」
「そいつも中々そそるよな! まさか盗賊が組合とか作っちゃいますか~? って感じが良いよな」
まあ、そういう反応だよな。
この程度の話でアッシュに警戒を促すのはハナから無理だ。
俺だって街のチンピラがちょっと武装してようがまるで警戒などしない。
もし仮に気の触れたヤツが居たとしてだ。
ナイフ片手に暗がりで背後から襲って来られたとしよう。
例えば魔術師組の誰かを連れていたのなら、俺もアッシュも少しは気を付けたかも知れない。
だが、俺とアッシュだ。
そんなもの何人やってきて襲撃されようともちっとも怖くないのである。
「うーし、んじゃ、探検する前に腹拵えといくか。噂の肉さがそうぜ」
地下街の秘密の屋台には、この世の物とは思えない最高の肉が売られているらしい。
という噂だったな。
「でも秘密の屋台なんだろ? そんなすぐ見つからないと思うけどな」
「まー誰か捕まえて聞いてみようや」
露店から少し外れたところで酒盛りをしている、如何にもヤンチャそうな奴ら目掛けてアッシュが歩いていく。揉めそうだなぁ。いや、揉めたいのかな?
「よお兄ちゃんら!
地下ですげー美味い肉が食えるって聞いたんだけどよ。
どこにあんのか知ってるか?」
気分良さそうに酒を飲んでいた男たちがピタリと動きを止め、ジロリと音がしそうな程の視線を向けてくる。
「なんだぁ? おめーら?」
「旅のモンなんだけどよ、超うまい肉の噂を聞いてやって来たわけよ。なあ、知ってんの?」
「知ってたとしても余所者なんかに教えてやんねーよ! 知りてぇなら金よこせ!」
「え、なんか意地悪な奴らだなぁ……」
ええー!? アッシュ!?
なにその反応! ちょっとショボーンってしてる!
喧嘩売ってたわけじゃないの?
地下街にワクワクし過ぎて調子狂ってんじゃないのか?
「おめーらよく見たら、いい服きてんじゃねーか。腰に差してる剣も高そうだしよ。その剣くれるなら教えてやってもいいぜ?」
無遠慮な手が俺の刀、薄葉灰影に伸びて来たので平手で払う。
「おぉん? なんだぁ? やんのかお前ぇ?」
ここでようやくアッシュが本調子を取り戻した。
「いいから黙って肉のこと吐けよ!!」
相手の胸倉を掴んで宙ぶらりんにさせている。
その言い方だと”黙る”のか”吐く”のか相手も困るだろうな。
「てめーやんのかコラ!」
「余所者がよォ!」
「イキがってんじゃねえぞ赤アタマが!」
「前髪なげーんだよ茶髪コラァ!」
まさか俺もいじられるとは思わなかった。
最後のやつだけは直々にシバいておこう。
三秒後に五人が床に倒れるのだった。
「おうコラ、美味い肉だせよコラ」
「アッシュ、別にこいつら肉もってないだろ」
「あ、そっか。えー……と、美味い肉くわせろコラ」
その言い方も何と言うか、ただの美味しい肉料理店に連れていかれそうだが……。
「チクショー! 今日のところはこのぐらいにしといてやらぁ! 親分がお前らのこと許してくれねーからな! 覚悟しろよ!?」
最上級の捨て台詞と共に去っていく。
それを見てアッシュが言う。
「普通はよォ、こういう時、見送るよな? そんでアホの親分が出て来て、
後日ソイツをぶっ飛ばす事になるんだろうが……これ、今このまま着いてったら面白くねーか?」
うわ、それ面白いわ。
そんなわけで俺たちはゴロツキたちを追いかけることにしたのだった。
「まてまて~いっ」と軽い調子で追い込んだつもりだったのだが、相手からすると恐怖だったのだろう。物凄い形相で加速して逃げていく。そのペースでいつまで持つだろうか。
「なあヴィゴ! なんかこれ面白れぇな!
ウサギ狩りみたいじゃねえか? あいつらどこまで行くんかな?」
「さあな~? たまり場みたいな所があるんじゃないか?」
追いかけていると色んな言葉が聞こえてくる。
コイツらいつまで着いて来るんだ!?
来るんじゃねえ! 舐めやがって!
俺たちは狼牙団だぞ!?
マルカントニオさんが黙ってないからな!?
一応この不良たちもグループ? チームというのか?
そういうものに属しているらしい。
意外と体力あるな、と思っていたら狼牙団が急に足を止める。
ついにスタミナ切れかと思ったが、どうやら違うようだ。
不良の一人が憎々し気に、足を止めさせられた原因、彼らの前に立ちはだかった集団へ向けて言い放つ。
「くそ、こんな時に鷲爪団かよ……!」
アッシュが嬉しそうにこっちを見てくる。
「おいおいおい! すげーよヴィゴ。
今度は鷲爪団だってよ。なんか大当たりだぜ、地下街ってすげぇ~!」
うん、俺も正直いうと面白い事になって来たな~と思っていたところだ。
どうも狼牙団と鷲爪団は地下街でナワバリバトルをしている不良チームらしい、ということが言い争う内容から判断できた。
鷲爪団の一人がこちらを見て威嚇する。
「てめーらどこのモンだコラぁ!? 狼牙団の新入りか!?」
「俺たちは六王連合! この地下街を制覇しに来た新しいチームだぜ!」
おいおい、アッシュ!
おいおいおいおいおい!
それメチャクチャ面白いじゃないか。
「俺の名はヴィゴ! 六王連合の特攻隊長だ!
バリバリのイケイケでビシッと行くんでヨロシク!」
「そして俺がアッシュ! 六王連合の総大将だ!
気合入れてバチバチで行くんでヨロシクぅ!!」
狼牙団、鷲爪団、そして六王連合。
四天公国の地下街、不良たちが覇権をかけて拳を握る。
喧嘩上等、素手喧嘩最強、
天下分け目の仏恥義理バリバリ伝説が今ここにあるのだった。




