126話 ~4章~ 四天公国マルダーニ
黒石葡萄とワインを楽しんだ俺たちは、二日の野宿を経て次の目的地へと到着した。
四天公国マルダーニ。
大陸東部にある帝国、その大貴族、四天貴族が中央に移り興した国だ。
「でっか……」
フーディが空を見上げてひっくり返りそうになっている。
見たこともない大岩、その上に街があり、城がある。
地表に出ている馬鹿でかい一枚岩はざっと見ただけで高さ200メートルくらいはありそうだ。
「あの大岩の中が迷宮になっているんです。全部で三十階層もありますからね」
三十階建ての建物と聞けば、この化け物みたいな大きさの岩にもちょっとは親近感が……と思ったが無理そうだ。近づけば近づくほどに威圧感が増していくばかりだ。
俺も含めて全員が「でかっ」「デカいなぁ」「大きいですねぇ」と、同じ感想を連呼している。
「これだけ大きいと門まで回るのも一苦労ですね」
ドルウィニョンの街を出発してから俺たちが辿った進路は街道を無視する最短ルートだった。
森を抜けて四天公国に着いたのだが、街道の出口に入国の門が向いているため、ただいまグルリと大岩を迂回中である。
教騎四商のうち、今まで見て来た三国はどれも平原にある都市だった。
人が栄える条件として住みやすい平野部で大国が成るのは自然なことだ。
ところが、四天公国は国の成り立ちに迷宮が絡む。
ルーツどころか、見た目からして他と違っているのは面白い。
大岩の一部が切り開かれた入口、なだらかな坂を上り大門を目指す。
対象物の岩が大きすぎるので遠近感が狂うが、まだもう少し馬で歩く必要があるだろうな。
「エレンイェルが言ってた、怒る囮亭ってどこにあんだろな?」
アッシュ、お前わざと言ってない?
踊る小鳥亭だよ。
泊まる気のなくなりそうな宿名だな。
「青色地区にある、とエレンは言っていましたね。四天公国は東西南北を四色で分けているんです。東が青色地区、西が緑色、南が赤色、北が黄色……という分け方だそうです」
さすがカトレアだ。
とは言えその情報は俺も知っていた。
騎王国の図書館で下調べをした時に都市の概要を勉強したのだ。
……たまには俺が説明したかった。
大門を抜けた目抜き通りは教騎四商の中でも一風変わった雰囲気があった。
四天公国の下地には帝国の文化があるので、他とは違うのだろう。
教国、騎王国、商人連国は、建物の建材自体に細工がされていたのだが、四天公国は建物の上から布を張って景観を彩るようだ。
街の中心を抜けていく大通りだからか、赤・青・黄・緑の四色が一揃いで飾られている。
旗のように屋根の上に立てられパタパタと風で靡き、店の入り口も四色で塗り分けられていたり、高級店の前ではカラフルな絨毯が敷かれていたりする。
ごちゃ混ぜで雑多な印象を受ける人も居るだろうだが、俺としては賑やかそうな空気が好ましい。
「お祭りみたいな大通りだったね」
色彩豊かな街のあちこちに目をやりながらクロエが言う。
「国の玄関口としては、四天公国が一番賑やかな感じするよな」
「確かにそうかも。見る物いっぱいありそう……あ、宝石つきの指輪、忘れてないよね?」
「ちゃんと覚えてる。四天公国なら店も多そうだし、明日にでも見に行くか?」
クロエが嬉しそうに腕を組んで来る。
ちょっと歩きづらいが水を差すのも何だしな。それくらいは譲歩するさ。
大通りを抜けて円形の広場に着く。
街の地形から見てここが一番大きな市場だろう。
武器屋、防具屋、仕立て屋、宝飾品店、露天商も多い。
絨毯を広げて果物を叩き売りする威勢のいい声もあるし、美味そうな匂いの串焼き肉を売る屋台もある。
俺たちの列から外れ、ティントアとフーディが何か買いに行った。
人数分の串焼き肉を手に持って帰ってくる。
いいね。
街を見ながら食べ歩きと洒落込もうか。
広場は四方向に道が伸びていた。
それぞれの地区に向かう赤・青・黄・緑のメイン通りが広場から始まっているようだ。
通りの入り口にはそれぞれの地区の色が当てられ、旗が立っていた。
凄く分かりやすい街の構造だ。
目指す宿は青色地区、踊る小鳥亭。
広場でキョロキョロと客を探している少年が居たので、銅貨を一枚渡して案内してもらう。
たぶん相場を考えれば鉄貨なのだろうな。
コインを手渡した少年の顔がキラキラと輝く。
料理の美味しい店、治安の悪い通り、街の名物から景色の良い場所など、様々なことを教えてくれた。
お礼に銅貨をもう一枚渡すと、何度も何度も頭を下げてニコニコしながら去っていった。
「おれ、ロックって言うんだ! いつも広場にいるからさ、また見かけたら声かけてよ! どこでも案内するし、何でも相談してよね! サービスするからさ!」
たくましい少年だ。
ああいう地元の子しか知らない情報は貴重だからな。
四天公国の滞在中にまた会うかも知れない。
踊る小鳥亭の青いドアを叩いて中に入った。
宿の質としては中の上くらいかな。
風呂付きではなかったので、入浴したい人はどこか近くの風呂屋を探さないといけないな。
部屋に荷物を置いて身軽になる。
さて、どうしようか。
ティントアが窓から空を見上げ太陽の位置を確認している。
「どうする? 謁見するの、今日は微妙だよね」
もうあと一、二時間もすれば日が傾くだろうし、明日の朝からの方がいいだろう。
例によって騎王アラソルディンからの紹介状を持ってはいるが、今から行っても受付時間ギリギリになってしまうはずだ。
「じゃ、自由行動だな。晩飯はどうする?」
ティントアとフーディはいつも通り買い食い行進だ。
四天公国の市場は特に露店が多かったのでそのまま二人で済ませて来るらしい。
という事は各自だな。
「いってきまーす」とフーディがティントアの背をグイグイ押しながら出ていく。
フーディはいつも腹ペコだな。
「私たちはお風呂に入れるとこを探して来ます。二日も野宿でしたし、旅の汗を落としたいです」
カトレアとクロエが連れ立って出掛けていく。
本当に二人とも綺麗好きだな。
ということはアッシュと二人か。
「俺らも街でも見に行くか?」
「なーに言ってんだよヴィゴ! さっさと支度しろ、行くぜ?」
おいおい、お前まさか……。
「迷宮に決まってんだろ。アイツらが居ねえ今がチャンスだ。噂がどんなモンか気になるだろ?」
「行くのはいいけど、チャンスって……枯れた迷宮だぞ? 皆も別に止めたりしないだろ」
「いや~? 分かんねえよ。カトレアだったら、
『念のため皆で行きましょう! オーホッホッホ!』って言いそうじゃねーか?」
う~ん、言うかもな。
「それによ、めっちゃ美味い肉も売ってんだろ? 今日の晩飯それで決まりだな、オラ行くぞ!」
アッシュが窓から大ジャンプで飛び出ていく。
「ほら、急げよリーダー! 置いてくぞ!」
久々だな、このアッシュに引っ張り回される感じ。
何だか少し、ちょっとずつワクワクしたような気持ちになる自分が居るのだった。
近道と称して家々の屋根の上を跳ぶ。
この動きは俺とアッシュにしか出来ないだろうな。
アッシュも迷宮の場所だけは押さえていたのか、四天公国の城の真下、大岩の鉄扉に真っ直ぐ向かっている。その扉の向こうが”地底の柱”と呼ばれる地下迷宮の第一層となっているのだ。
「やっぱ魔物とか居んのかな~? なーヴィゴ!」
楽しそうだなぁ、おまえ。
「居たらどうすんんだ?」
「飼う!」
えっ、あっ、戦わないの?
「猫っぽい魔物だったら手懐けて飼ってみてぇな~。俺よ、前から思ってたんだわ。うちのパーティには癒しがねえってな、だから魔物を飼ってみたいわけよ」
フーディとかメチャクチャ可愛くて癒されるんだけど、アッシュには違うんだろうなぁ。
魔物が仮に居たとしても飼育は難しいと思うが……。
まあ、アッシュが楽しそうなので黙っておくか。
ウキウキの悪友が軽快に飛ばす背を追いかけながら、俺も街を滑るように走るのだった。




