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125話 ~4章~ 第一回、六王連合杯

 カトレアを探していざ出発。


 宿の店主にワイン醸造所の場所を聞く。


 東のブドウ農園に行けば、エドナ教の修道院があるからすぐ分かる、とのこと。


 なるほど。

 ドルウィニョンの街では修道院がワインを作っているのか。


 エドナ教と葡萄酒(ワイン)の関係は密接だ。


 教義の中で聖なる飲み物とされているため、エドナ教は各地でこぞってワインを作る。


 修道院へ泊りに来た巡礼者や旅人へ販売するし、有名なワインとなればまとまった数で出荷もする。

 エドナ教の貴重な収入源なのだ。


「なんで一人で行っちゃったのかな?」


 風呂上りで髪のふわふわ具合が一段と増したフーディが不思議そうな顔をする。


「さあなぁ。クロエが意地悪するから、一人でこっそり行こうって思ったのかもな」

 

「えー? わたし? カトレアのお酒いじりはヴィゴもよくやってると思うけどね」


 とは言え、からかわれるのが嫌だから一人で行ったと考えるよりも……。


「単純に、早く飲みたかった、それだけじゃない?」


 だよな。

 ごくシンプルに、ティントアの予想説の方がしっくり来る。

 

「あっち着いたらよ、カトレアのやつもう出来上がってんじゃねーか?」


 真っ赤な顔をして酒を啜るカトレアが頭の中で思い浮かぶ。


『みんな遅いですよ! ほ~ら、駆け付け三杯といってもらいましょうか~!』


 うちの参謀は酔っぱらうと何しでかすか分かったもんじゃないからな。


 ちなみに修道院兼ワイン醸造所では、飲み物に合う料理も提供されているらしく、今日の昼食はそこで済ませようということになった。


 活気ある市場から徐々に離れ、だんだん人と建物が少なくなり、石の床が土に変わる。

 

 都市と農地を区切る壁を抜けたら、見渡す限りのブドウ畑が広がっていた。


「すごいな、これ全部がブドウなのかな」


 これだけ広いとそれ以外も植わってそうだが、ここから見える範囲では整然と並ぶブドウの木が奥までずっと広がっている。


 深呼吸してみれば爽やかな良い香りが胸いっぱいに入ってくる。

 甘酸っぱいブドウの香りだ。


「はやく食べたい! カトレアどこ!?」


 ティントアの手を引っ張ってフーディが走り出す。


 左右に広がるブドウの木、その真ん中の農道を二人が連れだって走っていく。

 後ろから見ていると『ブドウ畑と金髪の姉妹』と題した絵画を見ているようだった。

 

 農地で作業している人から挨拶され『こんにちは~』と返しながら歩いていく。


 少し歩けばすぐに修道院が見えて来た。


 醸造所と言えば大きな樽というイメージだが、戸の開かれた倉庫の中にいくつもの樽が並んでいるところを見れば、ここで間違いないだろう。他に建物らしい物もない。


 修道院がやっている販売所では様々な物が売られていた。


 葡萄酒は当然、噂の黒石葡萄(くろいしぶどう)、赤ワインに合うソースのかかった肉料理、チーズ各種も揃っているし、珍しい物ではブドウ飴という物まで売られている。


 大粒のブドウを串に刺し、飴をコーディングした食べ物みたいだ。

 フーディが好きそうだなと思っていたらさっそく列に並んで買いに入っている。


 俺も後で買ってみよう。

 それよりカトレアはどこだろうか。


 ここは販売所でありながら、飲食可能な野外料理店のようになっている。


 けっこうな数の椅子やテーブルが設けられているのだが、ちょっとしたお祭りくらいの賑わいで人が多く、カトレアを探すとなると少し大変そうだ。 


「よお兄ちゃん。飲んでるかい? ここのワインは最高だぜ?」


 面倒なことに酔っ払いのオッサンに肩を組まれた、と思っていたらカトレアだった。

 もう完全に出来上がってやがる! めちゃくちゃ酒臭いな!


「……楽しんでるみたいだな」


「ええ! ここのワインは良いですよ~! ほら、ヴィゴくんもどうぞ」


 どうぞって……と思っていたら馬鹿みたいにデカい樽ジョッキを俺の口に押し当てて来る。


「ちょっ……カトレ……」


 ダメだった。為す術なかった。

 そこに俺の口はないです。そこは頬っぺたです。


 顔面に酒をぶっかけられ、カトレアはケタケタと笑っている。

 後で風呂に入り直さないとなぁ……。


 しかし美味い酒だ。


 顔にかかった酒が口にも入ってきたが、果実の味、酸味、渋みのバランスがよくてまろやかな口当たりをしている。


 カトレアからジョッキをひったくって一口飲んでみればより一層、その出来栄えが分かった。

 強い酒なのに飲みやすい。喉を通って腹に滑り落ち、その後の呼吸に豊かな香ばしい香りがやってくる。


「これは、たしかに美味いな……」


「そうでしょう! あっちでスパイスワインもやってるんです! あったかくてスパイスが利いてて、これがまた美味しいんれすよれ~!」


 ああ、もう呂律が。

 酔っぱらってその辺で寝こける前に見つけ出せてよかった。


 アッシュならともかくカトレアみたいなのが地面に無防備に寝ていたら、良からぬ事を考える輩はゴマンと居るだろう。

 

「ヴィゴヴィゴ、ヴィゴ! これ食べてコレこれ!」


 今度は何だ。

 フーディがガバッと飛びついて来て俺の口に石のようなものを放り込む。

 

 いや本当に何これ? 本当に石なんじゃないのこれ?

 口の中で異様に固い物がカラカラと転がっている。


 フーディが満面の笑みで「はやく噛んで?」と言う。

 ええー……ワケ分からん虫とかじゃないよな?


 言われた通りに歯を立てると、口の中にある石のような物がパリっと割れて甘酸っぱい味が広がる。

 ブドウだ、これ。


「凄くない!? これ黒石葡萄だってさ!

 石みたいに固いのにチョットだけ噛んだらすぐに皮がパリッて剥けるの! 

 しかも皮も食べられる! 口の中で全然残んないんだよ? 

 そんでまた果汁がさ、ジュワーって、固い皮が守ってんだろうね。

 それが割れるから一気に果汁が弾けるんだよ!」


 食レポうまいな。

 いまフーディが一気に説明してくれた通りだ。


「おいヴィゴ! 見ろ! ティントアがすんげえ頬張ってる!」


 え? ああ本当だ。


 口がもう締まり切らないくらい黒石葡萄が詰まってるじゃないか。

 そしてそのまま口を閉じたのだが、ブシャー! と口から噴水みたいにブドウの汁が飛び出している。


 お下品すぎるよティントア!


「うん、このブドウ、うまいね」


 ほとんど口から出てたと思うけど!?


 フーディが真似して大量の黒石葡萄を口に詰めている。

 すぐティントアの真似をするんだから困ったものだ。


「ちょっと、移動するか。俺らだけで騒ぎ過ぎだな。向こうの空いてるテーブルに移ろう」


 我ながら名案だと思う。


 酒をかっ喰らうカトレア、高価なブドウを食い漁る者もいるし、アッシュがバンバン料理を注文し始める。急にやってきた奴らが大宴会を開こうとしているのだ。他のお客も居るし迷惑は避けたい。


 何杯目かのジョッキを干した後、カトレアが腕を出してドン! とテーブルに肘を突く。


「では、そろそろ始めましょうか。腕相撲大会を!」


 な……なんで?

 別にいつもやってないと思うけど、と思っていたらティントアが叫ぶ。


「第一回! 腕相撲、最強決定戦! 六王連合杯の時間だァッ!!」


『うぉぉぉ~!!』とフーディが鳴動している。


 いや、まあいいんだけど。

 そんなもん、どう考えてもアッシュが勝つだろう。


「さあやりますよクロエ! 腕を出しなさい! その細腕、へし折ってやりますよ!」


 いや、カトレアの腕も似たようなもんだよ。


「いいよ、カトレア。剛腕(ごうわん)の王の異名を教えてあげよう」


 君の異名は鶴髪(かくはつ)だよ。

 そんなマッチョなクロエ、俺は嫌だよ。


 一応だけ釘を刺しておくか。


「二人とも魔術なしだからな。人目があるんだから、弁えるように」


「そんなもの必要ありません! 見てくださいこの腕の、力こぶを!」


 ポコっと可愛らしいものが腕の付け根で控えめに主張しているだけだ。


 クロエVSカトレアはほぼ互角だった。

 本当に互角、お互いに押しもせず、逆に言えば押されもしない。


 けっこう長い間その状態が続き、クロエが卑怯な手を使う。


 空いている左手でジョッキを掴み、カトレアの口に酒を飲ませるのだ。


 勝負の最中であろうとも、口に酒がくれば飲んでしまうらしく、カトレアがゴクゴクと喉を鳴らしている間に勝敗は決したのだった。


 クロエは両手を天に突きあげて吠える。

 いや、それでいいのか。剛腕の王よ。


「ならばこの黒鉄(くろがね)の王が相手になろう、来い、剛腕の王よ」


 アッシュが袖をまくり、本物の筋肉という物を見せてくれる。

 

 俺以外の全員が一人の腕に組みついているが、まあ案の定アッシュは余裕そうだった。


「ヴィゴもはやく参加して!」


 分かった分かった。フーディに言われて俺も参加する。

 アッシュの方に。


「なんでぇ!? そっちじゃないじゃん!!」


 俺とアッシュは相手を叩きのめして吠えた。

 

 いいのか俺? いいんだよ。俺もたぶん酔っ払い始めたのだろう。


 そんなこんなで翌日は全員が二日酔い、しばらくグッタリして宿で休むはめになるのであった。

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