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109話 ~3章~ 一夜明け、また日常へ

 憎き竜を撃退し……。


 騎王国の国宝を無事に取り戻し……。


 俺たちに課せられた負債の呪いも解き……。


 盛大な宴会から一夜が明け、俺はベッドの上でボーっとしていた。


 記憶がない……。

 深酒をしない俺にしては珍しい事だった。


 覚えていないのに部屋まで帰ってこれたのは帰巣本能(きそうほんのう)か、それとも誰かが運んでくれたのか、恐ろしいことに、そんなことすら判然としないのだ。


 昨日くらいハッピーな大団円(だいだんえん)で酒を浴びないというのも白ける話だ。

 だからまあ、それは良いとして……。


 けれども、やはり酒の残る感覚は好みではないな。

 精神が鈍くなっているようで、どうもソワソワと落ち着かない。


 熱めの風呂でも入ってスッキリするか。

 そう思って浴室へ行けば、うちの女衆+エレンイェルが揃っていた。


 全員がここで力尽きたのか、浴槽に手を掛けたまま寝ているクロエ。


 冷たい風呂の床で大の字になって寝ているカトレア。


 カトレアのお腹を枕にして寝ているフーディ。


 転がっている赤い甲冑はサリだな。


 そしてエレンは壁にもたれかかって寝ている。


 一体なにがあってここで寝るハメになったのやら……。

 一人ずつ担いで寝室に放り込んでから風呂に入った。


 熱い湯がいくらか酒を抜いてくれたのか、少しはシャッキリして部屋に戻るとまだ全員寝ているのだった。


 フーディは寝相が悪いな。

 頭の下に柔らかい物を敷かないと寝れないのか、今度はクロエのお腹を枕にして寝ている。


 いつもは何となく俺が皆を起こして回るのだが、今日くらいはその役目を放棄してもいいだろう。


 特段やることもない。


 ある種の燃え尽き症候群なのか、しばらく何もせず皆の寝顔をボーっと見ていた。


 あれ、よく見るとアッシュ。

 ……真っ裸じゃないか。


 あぁ、そう言えば昨日、アラゴルスタンと裸で相撲をとっていたな。

 かろうじてその記憶はある。


 なんやかんやあってそのまま寝てしまったのだろう。


 流石にスッポンポンでは可哀想なので起こしてやるか。

 そう思って肩を叩こうとした手をグッと掴まれた。


 ……ビックリした。

 起きてたのか?


「アッシュ。おまえ起きてるならパンツくらい履けよ」


「俺は逃げねぇ」


 ……あぁ、寝言か。

 パンツは”逃げ”だと思っている人かと思った。


 肩を揺すって起こす。


「ん……ァー……ああ? ヴィゴ? もう俺の番かぁ?」

 

 寝ぼけてるなぁ。何の順番待ちをする夢だろうか。


「起きろアッシュ。まあ、寝ててもいいんだけど、おまえ裸だぞ?」


「裸ァ? あっそ。別に……あークロエが……うん、じゃあ服、着るわ」


 そうそう、面倒になるからな。

 アッシュにしては珍しくノソノソした動きで服を着るのだった。


「あー……ダメだ。まだ頭が重てェ……ひとっ風呂あびてくるかぁ」


 せっかく服を来たのに、思い直して浴室に行くアッシュだった。


 ふとティントアの寝姿を見て物凄い違和感があった。

 なんだ? どこがおかしいのだろうか?


 綺麗なまっすぐの姿勢でシーツに入ってスヤスヤと寝息を立てているティントアは、どこかが変だ。


 あ、分かった……。

 このティントア、なんか体がデカいのだ。


 シーツの上からでも分かるくらい体が逞しくなっている。

 なんだこれ!? なんで!? 寝てる間にマッチョになっている。


 思わずティントアの体に触れ、その異常な硬さに更に驚いた。


 シーツをめくって思わず吹き出した。


 コイツ、なんで甲冑を着て寝てるんだよ。

 

 誰の甲冑だそれ。

 酔っ払い過ぎだろう。


 そんな面白いことやってたっけ?

 まるで覚えていない。


 寝ているところ悪いが面白過ぎて思わずティントアを起こす。


「ティントア、起きてくれ。なんて恰好してんだ本当に」


 むくり、と体を起こすティントアがガシャガシャと鎧の音を立てる。

 ダメだ、やめてくれ。面白過ぎる。


「おはよう、ヴィゴ……。昨日は飲み過ぎたよ。体が凄く、重い」

 鎧だよ! それ鎧のせいだよ!


「なあ、ティントア。なんでその、それ着てるか覚えてる?」


「……うわぁ……なぁに、これ……」


 ガショーン、と音を立てながらティントアが立ち上がる。

 脛宛てまでキッチリ付けているのだ。本当になんでこんなことに……。


「とりあえず、お風呂、行くよ。スッキリしたいし」


 ガシャンガシャンとそのまま歩いていくのがまた笑える。

 浴室に入ればアッシュと目が合ったようで「おまえ何やってんのぉぉ!?」と高笑いが響いてきた。


 今日一日は部屋でゆっくりして過ごすのも悪くないな。


 そう思いながら湯を沸かし、水が沸騰するのを待つ間に武器の手入れのため、装備一式をテーブルの上に広げていく。


 ナイフは数本あるが、お気に入りやっぱり刃も柄も真っ黒のナイフだ。


 小鬼を倒した時の戦利品だが、思えばけっこう長い付き合いだな。


 今の所は刃こぼれ一つない。

 なるべく小まめに状態を見ているが、それにしたって丈夫な鋼だ。


 手裏剣が十枚、それから愛刀の薄葉灰影(うすばはいかげ)

 こいつの刀身はいつ見てもうっとりするほど美しい。今日もしっかり手入れしてやらねば。


 作業を始めると物音に目を覚ましたか。

 フーディが寝たまま顔だけこちらへ向けているのに気付く。


「おはようフーディ」


「……びっ……くりしたぁ……なんでヴィゴって、そういう分かるの?」


 フーディを見もせずに挨拶したら驚かれた。

 俺からすると魔術の方が不思議なんだけどな。


「気配だよ。フーディも練習したら分かるようになるよ」


「そうなの? ……ヴィゴ~」


 なんじゃらほい、横目でフーディを見る。

 仰向けのまま手を宙に伸ばしてブラブラさせていた。


「起こして~」


「はいはい」


 二つ返事でフーディの元へ行く。


 時折クロエに『何かフーディに甘くない!?』と言われるのだが仕方ない。

 なんでか知らないが色々としてあげたくなってしまうのだ。


 抱き起こしてそのまま洗面所に連れていく。

 洗顔、歯磨き、その間に湯が沸いていたのでフーディの分の茶も淹れておく。


 ティーカップを持ってテーブルに戻ると、俺の手入れ作業が気になったのかフーディが隣の席にちょこんと座った。


「寝起きに熱い茶はしみるぜ」

 

 そりゃ良かった。


 ナイフと手裏剣、薄葉灰影をピカピカにしてそれぞれをしまい直す。


「武器ってカッコイイね」


「ほう、フーディも意外と興味ある?」


「どうだろ? でもヴィゴが手入れしてるの見てると、ちょっと欲しくなって来たかも」


「そっか。じゃあ店にいってみるか?」


「いいの!? うん。行ってみたい。そういえば、あたしって武器屋さんとか行ったことなかった」


 そうだっけ? そうかもな。

 確かにフーディは大抵の場合、ティントアと一緒に露店を練り歩いているものな。


「よし! じゃあお茶飲んだらすぐ出発しよ!」


 熱いお茶をフウフウ言いながら急いで飲んでいる。

 思い立ったらすぐ行動しないと気が済まないんだろう。


 今日は一日、部屋で過ごすかと思っていたが、誰かが居るとやはり外に出たくなるものだな。


 武器を見に行くならアッシュも誘いたかったが、今は風呂だし、まあ今度でいいか。


「他にも誰か誘う?」


 寝ているクロエ、カトレア、サリ、エレンを見てフーディが小首を傾げた。

 消去法的に言うとクロエだろうな。


 カトレアは酒のせいで起きられないだろうし、サリはさすがにティントアの了解を得た方が良いだろう。エレンはもしかしたら今日から仕事があるかも知れない。


「クロエだな。宝石のついた指輪を買ってあげる約束なんだ」


 フーディがダダッと走ってクロエにのしかかる。


「クロエ~! お出かけするよ~!」


「んんっ! んなっ……えっ? なになに!? フーディ? どしたの?」


「お出かけしようクロエ! 街いこ!」


「んー……なに? あぁ、二人で街いくの? じゃあ準備するぅ……」


 ふわぁ、と大きなあくびをしてクロエが身支度を始めるのだった。


 出かける前に風呂が使えるなら大抵は利用してから出発するクロエだが、今日のところはアッシュとティントアが使用中だ。


 なので仕切りの奥で軽く体を拭き、髪を整えるくらいで済ませることが少し不満そうだった。

 元が良いのだから、そう気にする必要もないと思うけどな。


 ということで、俺、クロエ、フーディの三人で街へ繰り出すのだった。

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